もくじ
傾聴・カウンセリングの命は反射神経
カウンセリングや傾聴、さらには私たちが日常的に行うコミュニケーション全体は、実は反射神経で構成されていると考えることができます。
この「反射神経」こそが、対話の質、すなわちコミュニケーションの良し悪しや、カウンセラーとしての技量（義量）を決定づけている核となる要素なのです。
コミュニケーションにおいて最も重要となるのは、突っさの反応や瞬間的な選択です。
私たちは、相手から発せられた情報に対し、瞬時に反応を選択し、それを言葉にして投げ返しています。
この瞬時の選択と反応の質が、コミュニケーションの成功を左右するのです。
特に、人の心に深く関わるカウンセリングという対話形式においては、この反射神経、すなわち瞬間的な応答力が極めて重要な鍵となります。
コミュニケーションの一つであるカウンセリング、そしてその中で行われる傾聴は、反射神経が非常に大事であるため、この必要な反射神経を意図的に磨き上げることができれば、カウンセリングのレベルアップは確実に可能になります。
本記事では、この反射神経を支える「瞬間的な思考プロセス」を徹底的に分析し、その精度を劇的に向上させるための具体的なトレーニング方法について、深く掘り下げて解説します。
【筆者プロフィール】
心理カウンセラーとして6000件以上（2020年4月現在）のカウンセリングを実施。
5年間にわたりスクールカウンセラーとして教育現場の問題解決にあたり、現在も個別に教育相談を受ける。
大手一部上場企業を始めとした社員研修の講師として10年以上登壇し、臨床カウンセラー養成塾を10年以上運営。コーチとしても様々な目標達成に携わる。
著書「感情は５秒で整えられる（プレジデント社）」は台湾でも出版された。
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カウンセリングの命：「応答」の瞬間的な決定力と重要性
カウンセリングの場面では、カウンセラーはクライエントの話を聞きながら、心の中で様々なレスポンス（反応）を取ります。
そして、それを言葉にして「応答」という形でクライエントに投げ返し、示していきます。
この応答のプロセスにおいて、「どんな反応を、どんな言葉で返すか」という瞬間的な決定が、カウンセリングの流れ全体を定めます。
そして、この応答の質によって、カウンセリングがうまくいくかいかないかが決まってきます。
このため、カウンセラーの応答は「カウンセリングの命」であると言い切っても過言ではありません。
では、どうすればこの「命」となる応答を、瞬間的に、かつ極めて適切に行うことができるのでしょうか？
その答えは、応答に至るまでのわずかな時間、頭の中で高速に繰り広げられている思考のプロセスを理解し、その精度を向上させることにあります。
待ち時間ゼロの世界：すべてが瞬間的な反応で成り立っている対話
傾聴やカウンセリングの核となる行為、例えば「聞く」ということ。
「理解する」ということ、そして「応答する」ということ。
これらの一つ一つ、あるいはすべてが瞬間的な反応によって成り立っているのが現実です。
想像してみてください。
カウンセラーがクライエントの話を聞き終わった瞬間に、「ちょっと待ってください。今から1分間考えますから、えーっとどう言おうとしようかな」というわけにはいきません。
と私たちは、日常のコミュニケーションにおいても、相手の話を聞いた時に「どんな返事をするか3分間考えさせて」といった猶予は求められません。
実際には、クライエントの話が完了した直後、カウンセラーは一呼吸置く程度のわずかな間をもって、パッとまとまった言葉で応じているわけです。
したがって、突っさの反応、瞬間的な反応が、カウンセリングの成否を握る「鍵」となるのです。
この瞬間的な反応の重要性は、応答時だけにとどまりません。
聞くという行為自体も、その瞬間瞬間の聞き方で成り立っています。
瞬間的に「こう聞いている、こう聞いている」という反応が繋がり、意味をなした時、次には「こう理解している、こう理解している」といった瞬間的な反応へと移行していきます。
私たちは、こうした一連の瞬時の反応の中でコミュニケーションを行っており、理解から得たものをパッと言葉にしていく作業も、すべて瞬間的な反応の一部なのです。
この「瞬間的な反応」こそが、コミュニケーションの鍵となるわけです。
「反射神経」の深層：瞬間的に巡らされる「思考プロセス」を分析する
瞬間的な反応というと、外部からの刺激に対して自動的に起こる条件反射のように捉えられがちですが、実際にはそうではありません。
条件反射のように見えても、私たちはその裏側で、考えながら、瞬間的に思考を巡らしながら、頭を使いながら反応を生み出しているのです。
この極めて高速な思考は、以下のすべてのコミュニケーションの瞬間に使われています。
1. 聞く瞬間: どのような情報を受け止め、意味づけを行うか。
2. 理解する、共感する場面: 話の背後にある意味や感情をどう捉えるか。
3. 応答を考える時: 言葉の組み立てや、「こういう言葉で、こういう風に返していこう」という戦略を練る。
特に応答においては、クライエントの話が終わってから、言葉の組み立てや思考のプロセスを、本当にものの1秒ぐらいという極めて短い時間で行っています。
この組み立てる作業自体が、我々が思考を使っている動かぬ証拠です。
この瞬間的な思考の内容の良し悪しが、傾聴の正確性、共感的理解の深さ、そして応答の適切さといった、カウンセリングの質をすべて決定づけているわけです。
つまり、「じゃあこう聞こう」「こういうことだ」「じゃあ、こういう風に返そう」という一連の判断の裏側で、詳細かつ高速な思考が巡らされているのです。
この瞬間的な思考のプロセスの精度こそが、傾聴力、共感、応答のすべてを左右する鍵となるのです。
傾聴力を劇的に向上させるトレーニングの実際
傾聴力や共感能力、応答技術を向上させるためには、この瞬間的な思考のプロセスを改善し、研ぎすまして精度を上げていく必要があります。
ここを改善することで、傾聴力、共感能力、応答技術がレベルアップし、向上していくことにつながります。
私たちが提供するトレーニングでは、この高速で流れる瞬間的な思考のプロセスを、徹底的に「分解」し、「分析」するという作業を行います。
人間の思考は非常に速く、例えば、0.5秒から1秒の間に八つもの思考が巡らされていると仮定します。
我々はこのように瞬時に巡らされた思考を、一つひとつすべて分解していくのです。
具体的なトレーニングは、応答演習や録音・録画演習といった形で行われます。
そして、受講者とトレーナー（私）とで、思考の各ステップを詳細に掘り下げていきます。
掘り下げの焦点は以下の点です。
• 瞬間的にこの言葉が出てきたのはなぜか？
• この話をこのように聞いているが、なぜそう聞こえたのか？
• なぜそのような理解に至ったのか？
これは、スポーツの世界におけるスローモーション再生とまったく同じ原理です。
スポーツ選手が自身の体の動きを細切れにして「ここの形はこう」「ここの動きはこう」と確認しますよね。
私たちはカウンセリングのスキルにおいて、思考のプロセスのすべてを分解し、詳細にチェックしていきます。
瞬間的な世界をすべて分解し、細切れの一コマ一コマをチェックしていくのです。
思考と反応の「癖」を修正し、的確で正確な応答を身につける
思考のプロセスの分解と分析を通じて、受講者が無意識に行っている思考の癖、捉え方の癖、そして言葉の選び方の癖といったものが明確になります。
トレーニングの核心は、これらの癖を発見し、修正することにあります。
例えば、ある応答や理解の瞬間に「ここはこういう風に聞いてしまっているが、本当はクライエントはこう言っているのではないか？」といった形です。
自身の思考（捉え方）と、クライエントが発した現実（発言内容）とのズレを徹底的にすり合わせていく作業を行います。
細切れにした一コマ一コマをチェックし、修正することで、受講者は的確で正確な思考の仕方を身につけていきます。
そうすると、聞き方、理解の深さ、そして応答の仕方がガラッと変わってくるという効果が現れます。
思考のプロセスが変われば、当然、その瞬間瞬間の反応が変わり、聞き方や理解の仕方が変わるということが実際に起きるわけです。
また、人間が反応を変えることは「至難の技」と言われがちですが、私たちは、瞬間的に起きた思考だけでなく、感情も分解し、分析の対象とします。
例えば、「今この瞬間に、あなたはこういう感情が起きています。
それは、こういう風に捉えているから、そしてこう考えているからです」と分析します。
その根本にある思考や感情を明確化し、変えていくことで、外側に出る応答という「反応」の変化を促すのです。
この作業は、クライエントに対してカウンセリングで行う作業と本質的に同じことを、トレーニングとして自分自身に行うことになります。
反射神経への「梃入れ」なくしてカウンセリングの上達はあり得ない
このように瞬間的な思考を研ぎ澄まし、思考のプロセスのレベルアップを図ることに焦点を当てることで、反射神経を徹底的に磨きます。
これによって、より適切で、正確なレスポンス、そしてより深い理解を伴う聞き方が可能になるのです。
逆に、こうした徹底的なトレーニングを行い、反射神経（瞬間的な思考プロセス）に手を入れなければ、カウンセリングが上達することはありません。
また、傾聴力も応答スキルも磨かれることはありません。
なぜなら、反射神経という核の部分に梃入れがされていないからです。
瞬間瞬間の思考のプロセスが変われば、当然ながら反応が変わります。
反応が変わるということは、聞き方が変わり、理解の仕方が変わり、応答の適切さが生まれてくるということです。
この極めて瞬間的で高速な作業を、細かく分解し、分析し、そしてより精度の高い瞬間的なものへと作り直し、実践していく。
この徹底的なトレーニングプロセスを経てこそ、傾聴スキルとカウンセリング能力の劇的なレベルアップが可能なのです。
例えるならば、反射神経を磨くトレーニングは、まるでF1ドライバーのそれと同じ。
シミュレーターで一瞬のブレーキタイミングやハンドリングの癖をミリ秒単位で修正し、極限のパフォーマンスを引き出す作業に似ています。
あなたの傾聴も、この緻密な分解と再構築を通じて、プロフェッショナルなレベルへと引き上げられるでしょう。
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