カール・ロジャーズの来談者中心療法と応答技法

カール・ロジャーズの来談者中心療法では傾聴と並んで応答技法が極めて重要です。

応答技法が、そのままカウンセラーの実力を表わします。

また、ロジャーズの来談者中心療法では、セラピストの応答如何がその成果を左右します。

どうすれば効果的で血の通った応答ができるのかを解説します。


【筆者プロフィール】
心理カウンセラーとして6000件以上(2020年4月現在)のカウンセリングを実施。
5年間にわたりスクールカウンセラーとして教育現場の問題解決にあたり、現在も個別に教育相談を受ける。
大手一部上場企業を始めとした社員研修の講師として10年以上登壇し、臨床カウンセラー養成塾を10年以上運営。コーチとしても様々な目標達成に携わる。
著書「感情は5秒で整えられる(プレジデント社)」は台湾でも出版された。
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カール・ロジャーズと来談者中心療法

カウンセリングを学んだ人。

おそらくほぼ例外なく、以下の言葉を聞いたことがあるでしょう。

「傾聴」「受容」「共感」

これは主に「来談者中心療法」というセラピーから派生しました。

それぞれ、カウンセラーが実践必須のものとして、また、セラピー効果を生む要としているもの。

そして、この心理療法を生み出した人はアメリカのカール・ロジャーズです。

1902年に生まれ、85年の生涯を臨床に捧げました。

はじめは牧師を目指したそうですが、途中から心理臨床の道を歩むことに。

そこで面接の録音、逐語記録を元に検証する独自の理論と実践方法を編み出しました。

また、当時相談者を患者と言われていた時代に「クライエント(来談者)」と呼ぶように。

そのクライエントを中心とした視点で、相談者を上下関係なく一人の人間として限りなく尊重。

そういう視点と姿勢をカウンセラーに必須ともしていました。

ロジャーズと日本の臨床家の格闘

そのロジャーズ、初めは教育相談などで保護者の相談に対応。

しかし、それが思うように成果をあげられず途方にくれていたそうです。

絶望し、ひたすらクライエントの話を聞くしかなくなった日々が続きました。

そう、そこからこのセラピーが生まれたともいわれています。

ある時期からこの心理療法は、あっという間に世界中に広まることになります。

その余波は日本にも。

戦後間もない昭和20年代後半、一人の教育者が日本にいました。

名は友田不二男といいました。

彼もまた、教育相談の分野でロジャーズと同じ壁にぶつかって苦しんでいました。

その時友田は、茨城キリスト教大学の創設メンバーの一人だったローガン・ファックスとの出会いがありました。

友田はファックスに、自分の葛藤をぶつけたそうです。

話を聞き終わったファックスは、友田にある一冊の本を手渡したそうです。

その本はロジャーズの著書「サイコセラピー」でした。

友田はその本を夢中で読み、ここに打開策を見出します。

大学の研究室にこもり、相談面接をし、その録音と逐語記録の研究に没頭しました。

2年の月日を経て、友田は研究の成果を世に出します。

当時、名だたる臨床家や教育者が友田のもとにあつまり面接研究、逐語検討に打ち込んだそうです。

同時に友田は、ロジャーズの著書や論文を次々と翻訳し、日本に広めました。

そこから日本ではそうした面接研究やエンカウンターグループなど、全国各地で行われたとか。

応答技法の探求とカウンセリングの発展

当時はカウンセラー同士で、面接の録音・逐語をめぐってとても熱い議論が繰り返されました。

「この応答は違う!こう言えばいい」
「それではダメだ、こう言ったほうがいい」
「でもその応答だとここが違う・・・」

そのため、当時のカウンセリングのレベルも臨床家のレベルも、非常に高かったそうです。

私の師匠の吉田は、そんな時代に研鑽を積んだ一人。

吉田曰く、師事した友田と遠藤勉氏の二人は、名のある他の臨床家よりもすぐれていた。

動き方が他の臨床家とは二段も三段も違っていたと・・・言っていました。

私、鈴木はその「動き方」を知りたくて、友田氏や遠藤氏の本を購入し、何度も何度も読み返しました。

もちろん、師匠の吉田の本も同様でした。

今、個別レッスンなどでは、その「動き方」を生徒の皆さんにお伝えしています。

では、その動き方はどこでどうやって学べるのか。

応答技法の習得法は逐語記録の検討

もうここまで読めば、お分かりだと思います。

そう、逐語記録の検討、ヒントも答えも逐語にあります。

実際のやり取りを細かく検証する。

ここにセラピーを成功に導くノウハウやヒントが
ぎっしりと詰まっているんです。

傾聴やカウンセリングのスキルアップを本気でお考えであれば
先ずはこの逐語記録の学習を始めてみてください。

なぜカウンセラーの応答(言葉の選び方)は重要なのか

カウンセリングにおいて、クライエントの話を傾聴した際にカウンセラーが投げ返す言葉を応答といいます。

クライエントのそこまでの話をカウンセラーがどのように聞き、理解したかを言葉にするものです。

だからクライエントは、その応答を聞いて自分の伝えたいことがしっかり伝わったかを確認します。

そもそも、クライエントがなぜ話をするのか?

それは、カウンセラーに話したいことがあるから。

つまり、伝えたいことがあるから話をします。

その伝えたいことをいかにしっかりと伝えられるか、その目的のために話の内容や言葉を選びます。

だから、単にその言葉をこちらが繰り返すだけでは、クライエントにしてみれば意味がない。

使った言葉ではなく、その言葉を使って伝えたかったこと、それをカウンセラーがどう受け取ったかを知りたいわけです。

ですから応答も相手の使った言葉を繰り返すのではなく、「伝えたかったことがこういうことですね」になるべきです。

その「こういうこと」の部分が具体的な言葉になっていればよいわけで、それはおなじ言葉よりも違う言葉の方がよいのです。

クライエントにしてみれば、自分の伝えたかったことを自分の使った言葉とは違う言葉でまさに言っている。

その方が「伝わった」という実感を強くするものなんですね。

応答技法を簡単な例で解説

アンパンやおはぎ、ビスケットなんかを食べたいんです。

それに対して「アンパンやおはぎ、ビスケットなどが食べたいんですね」よりも「甘いものがなにか食べたいんですね」の方が理解した感じが伝わりますよね。

理解したならば、こうして別の(自分の)言葉に置き換えることが可能になります。

「甘いものが」と言われた方が、話し手は「そうなんですよ」となります。

この「そうなんですよ」は「そうです、私の言いたかったことはそういうことなんです」と同義です。

これがまさに、話し手と聞き手が同じことを共有できた瞬間です。

話し手はそもそも、何か甘いものが食べたい。

甘い物なら多少ものを選ばなくてもいいということが言いたかった。

それを聞き手は「甘いものがなにか食べたいんですね」と受ける。

それなら話し手は「そうなんです」となります。

「甘いものを食べたい気持ち」を受け止めてくれたと感じます。

つまり、これが一つの共感的理解なんですね。

だから、どんな言葉で応じるかということは、とても重要なんです。

どんな言葉を選ぶことができるかが、共感には大事なんです。

その言葉の背景には、しっかりとした理解があるわけです。

これはカウンセリングやコミュニケーションの基本の「き」です。

先ず、ここが理解できていないで勉強しても、何も身につきません。

ここの理解がなければ、いくらロールプレイをやっても迷路にはまり込んでいくだけです。

つまり、話し手は伝えたいことを正確に伝わるようにするために話す際に話の内容や言葉を選びます。

一方、聞き手はその話を正確に理解したことを確かめるために応答の仕方やその言葉を選びます。

そして両者をつなぐ架け橋になるのが傾聴でそれは「話し手の話を正確に聞くこと」に他なりません。

先ずはこの基本構造をしっかりと知り、理解することが大事です。

多くの人が、この理解がないまま、ロープレなどをやっています。

ぜひ、ここのところを押さえてから学習やトレーニングをしてください。

師匠吉田哲が伝えた応答習得の極意

応答やカウンセリングの習得について私の師匠吉田哲先生とのエピソードを紹介します。

吉田はお酒が大好きで、食通でもありました。

普段は隠れ家的お店があり、そこで一人飲むことも。

その時は私を含め、3人の弟子を連れて、普通の居酒屋でご一緒させて頂きました。

そこでは貴重な昔話をしてくれました。

吉田が若かりし頃のカウンセリング界、当時の臨床家の話も。

友田不二男、佐治守夫、伊東博など、名だたる臨床家がどうだったのかという話は興味深かったです。

今日書くのはその話ではなく、カウンセリングを学ぶとはどういうことか。

そこで吉田が話してくれたことを書こうと思います。

吉田の下には当時、100人を超える生徒がいました。

そのほとんどが40代以上の女性でした。

内訳でいうと、50代以上が70%くらいで、中には70代、80代の方が何人もいました。

その日の飲み会では、そうした生徒、弟子について、珍しく話をしてくれました。

それだけの生徒がいたのですが、吉田からすると、自分が伝えたいことが伝わらない。

大事なことをなかなか学ばない・・・というのです。

その事について、吉田はこう話してくれました。

「弟子は師匠に全面降伏?」技法習得の心得

「彼女たちは『先生の言うことは、納得できたらやります。でも、納得できないうちは受け容れられません』と・・・」

「それではダメなんだ。そんなんでは力がつかないんだ」

「基本は師匠の言うことは、先ず受け容れる、やってみる。やってみて疑問が出てきたら、それをこちらに問えばいい」

「やってもいないうちからああだ、こうだでは、力がつかない」

「そもそも”納得する力”もない人間が、納得してからなどと言っているようではダメなんだ」

言い方は厳しく聞こえるかもしれませんが、私は「至極当たり前のことだな」と納得して聞いていました。

また吉田はこういう言い方もしていました。

「弟子は師匠の言うことには、先ず”全面降伏”でなければ力がつかない」

吉田先生らしい表現だなあ・・・と思いました。

でも、言わんとしていることはその通りだと思いました。

出来ない人は、出来る人の言うことを素直に先ずは受け容れて、そして確かめてみることが大事です。

全面降伏が抵抗あるなら「確かめる」という言い方になります。

先ず、取り入れて確かめてみるんです。

これが上達の一番の近道であり、王道だといえます。

クライエント中心療法と応答

クライエント中心療法の成否を分けるのは応答技法といってもいいでしょう。

ですが適切な応答を導き出すためには、そもそもクライエントの話を正確に聞けていなければなりません。

正確に聞き、的確な理解を持てることで、初めて効果的な応答は何かがわかります。

しっかりとした理解があれば、そこから応答は勝手に浮かんできます。

トレーニングを積み、経験を重ねていけば、そのことが見えてきます。

そう考えると傾聴も共感的理解も応答も、すべてつながっています。

その入り口の傾聴力がつくことで、応答技法も磨かれていくわけですね。

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