来談者中心療法、カウンセラー3つの条件(カール・ロジャーズ)

来談者中心療法の3つの条件は1)自己一致または純粋性2)共感的理解、3)無条件の肯定的な関心・受容です。

カール・ロジャーズ(アメリカの心理学者)が提唱したカウンセラーがカウンセリングを行う際に重要であるとした要素です。

今回はそれぞれについてカウンセリング歴20年以上の筆者が、実際の臨床現場の経験を通して解説します。


【筆者プロフィール】
心理カウンセラーとして6000件以上(2020年4月現在)のカウンセリングを実施。
5年間にわたりスクールカウンセラーとして教育現場の問題解決にあたり、現在も個別に教育相談を受ける。
大手一部上場企業を始めとした社員研修の講師として10年以上登壇し、臨床カウンセラー養成塾を10年以上運営。コーチとしても様々な目標達成に携わる。
著書「感情は5秒で整えられる(プレジデント社)」は台湾でも出版された。
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1)自己一致とは

カウンセリングをする上でカウンセラーには、この「自己一致」が必須です。

一般的な自己一致の説明としては、カウンセラーの「感じていること」と「言動と態度」が一致している状態とか。

あるいは「聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。」など。
(引用:構成労働省「こころの耳」より)
https://kokoro.mhlw.go.jp/listen/listen001/

しかし、これが学術的な説明にはなりますが、実際にカウンセラーとしてカウンセリングをする人たちにとっては、フワフワとした、それこそわかったようなわからないような説明になります。

自己一致の正体、そしてその効果とは

自己一致はカウンセラーとしてカウンセリング成功には必須の条件。

それだけでなく、自己一致できると一人の人間として
生きていく上でとても楽ですし、充実感を得やすいです。

人とのコミュニケーション、人間関係でも
自己一致できることで深い人間関係を経験できます。

そこで、自己一致とは何かをわかりやすく解説してみようと思います。

おそらくこの自己一致の解説、
他ではあまり聞いたことがないと思います。

調べてみると、ネット上でもカウンセラーだんたいなどでも、
なんか結構薄い、適当な解説が多いなと・・・

だからわかりやすくだけど「なるほど、これが自己一致なんだ」と
納得してもらえるような解説をします。

あなたは自己一致できてる?できてない?

カウンセリングの勉強でロジャーズ理論にふれるとき。

その時、必ずこの「自己一致」という概念を学びます。

カウンセリングでは自己一致はものすごく重要な要素です。

ですから自己一致とは何か、どうすれば自己一致できるのかを知っておく必要があります。

ところが、共感的理解や傾聴と同じく、この「自己一致」に対する理解は意外と皆さんバラバラ。

そこで今回は自己一致とは何か、どうすれば自己一致できるのかについてお伝えします。

先ず、自己一致とは何でしょう?

何でしょうというよりも、もっと正確に質問すると「どういう状態でしょう」となります。

自己一致とは状態や態度のことだからです。

ということは、知識として知っているだけでは実践では活用できない。

どういう状態かを経験できていることが重要です。

自己一致に対して経験的な実感があるか無いかが自己一致の理解と、その実践には重要です。

自己一致とはどういう状態なのか

では、自己一致とはどういう状態なのか。

それは、自分の内面で起きていることをリアルタイムで正確に自覚できている状態です。

クライエントの話を聞きながら起こる内面での反応。

その反応や感覚、たとえば感情や思考などを正確に認識していることです。

それも「リアルタイムで」という条件付きになります。

つまり「正確に認識できていない」「リアルタイムではない」というのが
「自己一致できてない状態」ということになります。

内面では苛立っているのに、無かったことにしたり、苛立ちそのものに気づけない。

あるいはカウンセリングを終えた後、しばらくして自分が苛立っていたことに気づく。

これらはいずれも「自己一致できていない(いなかった)」ということになります。

クライエントやその話の内容に嫌悪感を感じていたのに「感じていない」ことにしたり、
感じていることに気づけない。

こうした無自覚はカウンセリングの失敗につながります。

カウンセラーは少なくとも自己一致できている必要があります。

自分の内面を正確に把握できずに、どうしてクライエントの内面をしっかりと理解できるのでしょうか。

だから、カウンセラーは自分の内面を正確に、しかもリアルタイムで認識できている必要があります。

もし、クライエントやその話に対して苛立ちを覚えているのなら、そのことに気づき、
どう対応するか冷静に判断すべきです。

もしクライエントやその話に嫌悪感を感じているのなら、そのことを認め、
その上で改めてニュートラルに話に集中し直すべきです。

自己一致とはそういうカウンセラーの姿勢であり態度です。

どうすれば自己一致できるのか

では、どうすれば自己一致できるようになるのか?

このテーマ、実は一人では取り組めません。

信頼できる指導者の指導を受けることが必要になります。

具体的には教育分析(カウンセリング)を受けたり、逐語指導などのスーパーバイズを受けたりします。

自分を客観的に、そして専門的に見てくれる指導者と取り組む課題といえます。

私も師匠であった吉田にこの部分ではかなり念入りにやってもらいました。

そして、「鈴木さんは大丈夫だ」とご判断いただいた上でカウンセリングをしてきました。

とはいっても、時と場合によっては自己一致できなくなる瞬間は出てきます。

その場合はいち早くそのことに気づき、自覚し、受容した上で、
適切な対応をすることが大事になります。

自己一致はカウンセラーがカウンセリングをする上では不可欠な要素であり条件です。

ここは手を抜かず、徹底して取り組んで頂きたいと思います。

そうすることでカウンセラーとしてだけでなく、一人の人間としても成長できることになります。

2)共感的理解とは

ロジャーズの来談者中心療法では、共感的理解がセラピーの柱となります。

クライエントに対していかに共感できるかが重視されています。

では、カウンセラーはクライエントに対してどこまで共感することが可能なのでしょうか。

共感的理解とは何か

共感的理解とはクライエントが伝えたいことをカウンセラーが出来る限り共有する(分かち合う)ことです。

クライエントが伝えたい経験、感情、感覚、考えなど、主に内面的、情緒的なものですね。

これをいかに分かち合えるか、共有できるかということになります。

そしてもう一つ言えること。

それは、共感的理解とは「なるほど」「そういうことか」という静かで深い実感のことです。

この感覚が共感的理解の感覚ということになりますが、ここに言及している臨床家がいないのが不思議です。

共感的理解はどこまで可能か

まず最初に申し上げたいのは、カウンセラーがクライエントに対して
100%共感することは不可能だということです。

そこはロジャーズも「あたかも~のように」と 表現しています。

実際に体験をした人間と全く同じように経験の世界を共有することは不可能なのです。

実際に経験した人間と、その話を聞く人間、
そこには当然、温度差というものが存在します。

カウンセリングで実践する共感的理解では、
この温度差をいかに少なくして行くかが一つの勝負どころです。

100%は当然無理ですが、1%でも近づけないかという感じですね。

たとえそれが20%であっても、クライエントは
「分かってもらえた」 という実感を持つに至ります。

なぜかというと、私たちは普段の生活の中で10%も共感してもらえない経験の連続だからです。

5%であっても共感してもらえた手応えがあればまだ上出来で、
実際の生活はほとんど共感されない世界の中に居る人が多いのです。

そういう現状があって、カウンセリングで20%も共感してもらえたら
「分かってもらえた」という実感が起きるのは当然でしょう。

ですからカウンセラーとしては20%、いや30%といったレベルの共感に全力を尽くす感じです。

たとえ100%でなくとも、20%でも共感してもらえたら
クライエントの心は大きく動き、救われる思いがするわけです。

クライエントは共感的理解にどこまで期待しているのか

そしてそもそも、カウンセリングに来られる方は
本気で100%共感してもらおうとは思ってないでしょう。

実際に経験したこともない人間とどこまでの 経験や実感が共有できるかを考えれば
おのずと「100%は無理」ということはわかるはずですから。

それでもカウンセリングで自分の経験を語るのは、
少しでも自分が経験したことをわかってもらいたいからです。

そして共感されることで立ち直れると言うことを
私たちはどこかで、本能的にわかっているからです。

人間が一番力を失うのは孤独であり、誰とも繋がりが実感できない時です。

そんなときに一人でも自分のことを理解してくれる人間が現れる。

そして共感によって少しでもつながりを実感できることは
その人にとって希望と勇気の入り口に立てることを意味します。

では、具体的にはどのように共感的理解が成立するのでしょうか。

共感的理解はこうして成立していく

それはカウンセラーの投げ返す言葉によってです。

クライエントはカウンセラーの投げ返す言葉を聞き、心を動かされていきます。

その言葉は助言や励まし、説得というものではなく、
「分かってもらえた」という実感が起きるものです。

これがいわゆる「非指示的アプローチ」です。

共感的理解は知的な働きかけでなく、情緒的な働きかけだと言えます。

「分かってもらえた」という経験から感じる「つながり」という実感は、
知的な働きかけだけでは決して生まれないものです。

ですからカウンセラーはクライエントに
「分かってもらえた」と実感してもらえる応答することが重要です。

本当の意味で「分かってもらえた」と心から実感できる応答は何か。

それを追求して行くことがカウンセリングの学習だとも言えます。

私が応答訓練や逐語検討を重視する理由もそこにあります。

カウンセラーの一言一句がクライエントの心にどのような影響を与え、
それらがどのようにクライアントの心を動かすのか。

突き詰めていくべきことは、そこなのです。

3)無条件の肯定的な関心・受容とは

受容という言葉はカウンセリングでは必ず習う用語です。

では、受容とはそもそもどのような意味なのでしょうか。

GoogleのAI検索では、このように表示されます。

「人の主張や要求を聞き、それを承知・容認すること。
また、物事をあるがままに受け止め、それに抵抗しない姿勢」

要するに「承知・容認・あるがまま」がキーワードです。

カウンセリングでいうと、クライエントの話、訴え、あり方を
そのようにしていくことでしょう。

ちなみに、この受容の対義語はなんでしょう。

これもGoogleのAIを参考にすると、こうです。

「排除、排斥、疎外、無関心」

つまりは「受け容れない」ことですね。

無条件の肯定的(積極的)関心の実際

無条件の肯定的(積極的)関心とは、クライエントとその話を否定的に受け止めないこと。

限りなく肯定的に捉えることを指しています。

わかりやすい表現をすると、クライエントの人間性や言動について「興味深い・面白い・新鮮だ・好感がもてる」といった捉え方になっていることです。

つまり強い興味・関心をもって話を聞く。

クライエントとその話に対して、カウンセラーとしての観点から「興味津々」でいることです。

なぜ受容・肯定的関心が重要なのか

ではなぜ、カウンセリングではこの「受容」が重要視されるのか。

それは、カウンセリングを受けるクライエントが
それまでに何らかの「排除、排斥、疎外、無関心」を経験した。

その経験によって心を深く傷つけられてきたからです。

「排除、排斥、疎外、無関心」によって傷ついた心には
先ずその反対の「受容・共感・積極的な関心」が必要。

つまり受けた仕打ちの逆の経験を積み重ねていくことで、
人は癒され、立ち上がっていくということになります。

だからこそ、カウンセリングでは受容や共感などが
カウンセラー(セラピスト)の姿勢として重視されるのです。

ただ、この受容や共感は何も
カウンセラーだけに大切なものではありません。

人として大切な姿勢でもあり、親・教師・上司など、
社会的な上位者にも、とても大切な姿勢です。

なぜなら、上位者のそうした関わりと心によって
子ども・生徒・部下などが成長するからです。

そして人が人として成長することによって
社会はまっとうな発展を遂げていけます。

そしてそうした成長の連鎖と共に、
人としての幸福感・喜び・感謝も広がっていきます。

受容的、共感的であるということは、
人が人として幸せに生きていくためにとても大切なことなのです。

その「人が人として幸せに生きていく」ことを援助する場でも
同様に受容的、共感的であることが大切になってきます。

受容・共感が乏しい現代社会だからこそ重要

ただ、残念ながらこうした受容や共感の経験や実感に乏しいと
こうした姿勢の大切さを信じることができません。

自分が受容や共感的に接してもらう経験に乏しいと
その喜びや暖かさを実感として持てないのです。

だからこそ、カウンセラーやセラピストが
先ずは受容的、共感的な人間として、そのように関わる。

クライエントとの間に受容的、共感的な関係性を築く。

そうすることによってクライエントに改めて
受容的、共感的な経験と実感を体験してもらうわけです。

そうすると初めは半信半疑であったクライエントも
徐々にこの暖かさに心を許すようになっていきます。

そして何度となくこの暖かさにふれることによって
やがてクライエントは心を開き、安堵し、その人に信頼を寄せます。

信頼関係ができれば、人は一歩一歩立ち直っていけるのです。

心理臨床家遠藤勉氏の貴重な受容エピソード

かつて日本には遠藤勉という心理臨床家がおりました。

私の師、吉田哲が尊敬していた臨床家でもありました。

その遠藤氏は戦後の混乱期、戦災孤児に対して
養護施設などでカウンセリングを行っていました。

戦災孤児とのカウンセリングで数々の功績のある遠藤氏は、
自らもそうした子たち数人の里親となり、寝食を共にしました。

その中で里子となったある青年と遠藤氏の奥様とのエピソードがあります。

その青年もなかなか遠藤夫妻には心を開けなかったそうです。

そんなある日、お風呂に入る時間になったとき、
遠藤氏の奥様はその青年の前で平然と服を解き、お風呂に入ったそうです。

それを見た青年は、この人を信頼しようという思いに溢れ
それから本当の親子のように過ごすことになったそうです。

私はこのエピソードを遠藤氏の著述として読んだ時、
真の受容・共感の在り方にふれた思いがしました。

そこには奥様の青年に対する深い信頼や慈愛があり、
それが青年の心を揺り動かしたということでしょう。

カウンセリングでのカウンセラーとクライエントとの関係性は
まさにこの親子のごときものだと思うのです。

受容という言葉は、一言で口にできるものです。

しかしその本質には、簡単にはたどり着けない。

私たちは自分の試行錯誤を通してしか、その本質を実感できません。

受容とは「物事をあるがままに受け止め、それに抵抗しない姿勢」

「承知・容認・あるがまま」

意味としてはこうです。

言葉の意味を口にすることは誰にでもできますが、
それを自分の深い理解と実感を以って伝えられること。

カウンセリングやセラピーを通して活かせること。

そのために何をすればいいのかということが
カウンセリングの学習の本質といえるでしょう。

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心理カウンセラー・臨床カウンセラー養成塾 塾長 鈴木雅幸(コーチ・企業研修講師)のプロフィール

台湾でも出版された「感情は5秒で整えられる(プレジデント社)」の著者で、心理カウンセラーとして6000件以上(2020年4月現在)のカウンセリングを実施。
5年間にわたりスクールカウンセラーとして教育現場の問題解決にあたり、現在も個別に教育相談を受ける。
大手一部上場企業を始めとした社員研修の講師として10年以上登壇し、臨床カウンセラー養成塾を10年以上運営。
コーチとしても様々な目標達成に携わる。
 詳しいプロフィールはこちら

著書「感情は5秒で整えられる(プレジデント社)」