ラポール(架け橋)とは互いの信頼関係を指し、形成(築く)には共感的理解を重ねるのが秘訣です。
一旦ラポールが得られると、そこから先の取り組みがしっかりとできるようになります。
では、そうしたラポールを得るための秘訣、課題、具体的方法をいかにわかりやすくお伝えします。
もくじ
ラポールとは
ラポールはカウンセリングでは欠かせない要素です。
ラポールはカウンセラーとクライエントとの関係性をいいます。
「心理学で、人と人との間がなごやかな心の通い合った状態であること。親密な信頼関係にあること。心理療法や調査・検査などで、面接者と被面接者との関係についていう。」
~デジタル大辞林より~
こうしてみるとラポールは人間関係全般にもいえることのようです。
では、なごやかな心の通い合った状態とはなんでしょう?
親密な信頼関係とは何でしょう?
わかりやすくいうとお互いのことをよくわかりあっている関係です。
また、相手のことをわかっているし、相手も自分のことをわかってくれていると思える心理状態になります。
雑談や会話が苦手な人は、この安心感が相手になかなか持てません。
相手の人間性や考え、タイプを自分なりにわかっていると思える場合、安心して会話が出来ます。
しかし、まだそこまでわかっていると思えない関係の相手には、なかなか心を開くことができず、不明な部分への警戒心が先に立ち、コミュニケーションに消極的になってしまいます。
会話や人間関係が得意な人は、この不明な部分を不明なままにして、距離感を保ったやり取りを続けていく中で、少しずつ明らかにしていきます。
その結果、親しい間柄になれるか、そこそこ距離を保った方が良いお付き合いになるかを判断します。
雑談やカイワガ苦手な人は、不明な部分に対して否定的な推測を働かせてしまいます。
もし、自分のことを否定的に思っていたらどうしよう。
自分のことを「ダメな人間」「能力のない人」と思っていたらどうしよう。
こうして否定から入るためにコミュニケーションは消極的なままになってしまうようです。
いずれにしても、ラポールが築けるとお互いに率直なやり取りが出来るようになります。
そしてその率直なやり取りには配慮が添えられてもいます。
こうしたやり取りができる関係性であり、互いに尊重と理解をわかち合える関係をラポールということもできますね。
ラポールを構築するために必要なこと
ラポールを構築するために必要なことは何でしょうか?
具体的な例をもとに解説します。
先日、キャリアカウンセラーのMさん(女性)から、ある報告を受けました。
彼女は一年ほど前から私の養成塾に来ています。
昨年のうちに「養成講座」も修了し、公的機関でキャリアカウンセリングを続けています。
今の時期は、就活生の面接に追われているそうです。
先日、そのMさんと改めて話をする機会がありました。
近況報告も兼ねていろいろ話を伺っていくと、自身のカウンセリングに変化が出てきたというのです。
具体的には、クライエントが面接後に書くアンケート。
その記述内容が変わってきたとのこと。
「親身になってくれた」という回答が、以前より増えたようです。
少し厳しいことを書くと、こうしたアンケートの信ぴょう性は、実はあまり高くはないのです。
担当者(カウンセラー)が目を通す可能性のあるアンケート。
そうした前提がある場合、仮にカウンセリングに不満があったとしても、多くのクライエントはそのまま不満を書かないものです。
むしろ、心あるクライエントの方なら、例え不満があっても、好意的な感想を書いてくださるものです。
そういう意味では、鵜呑みにはできないのですが、今回は「複数回答であった」という点が着目できます。
複数の方が「親身に」と回答。
しかも、傾向として、その数が明らかに増えてきた。
この変化は、純粋な変化として受け止めてもいいでしょう。
ではなぜ、「親身になってくれた」という回答が増えたのか?
私はすかさず、Mさんご本人に、どうして増えたと思うかを問うてみました。
するとMさんは、こう答えてくれました。
「おそらく、こちらの『理解したい』という姿勢が、いくばくか伝わっているのではないかと思うのですが・・・」
少し遠慮気味にそう言ったMさんの回答。
実は、私もこの回答は意外なものではありませんでした。
なぜなら、それは日頃から養成塾で徹底していることだからです。
誤った学習をしてしまったカウンセラーは、助言や分析、励ましなどを多用したくなります。
しかし、精神的に追い込まれたクライエントにとって、これらは有効どころか、害になる。
いかに助言や分析、励ましをしないで、それをした時以上の回復を呼び起こすか?
それが、カウンセリングの基本形です。
では、カウンセラーは、助言や分析、励ましではなく、一体何をすれば良いのでしょうか?
答えは「理解に努めること」です。
しかも、この理解は「的確に」であり「深く」であることが必要です。
ところが、この「理解」ということでは、ほとんどのカウンセラーが苦労します。
多くが「理解できている」ではなく「理解できない」であったり、「理解したつもり」で終わっています。
そして「理解したつもり」と「理解できている」とには、想像以上のギャップがあります。
わかったようなことを言われる。
クライエントにとって、これほど抵抗を覚える経験もありません。
クライエントが求めるもの。
それは「わかったようなことを言われること」ではなく、「わかってもらえたという実感」なのです。
自分の伝えたいことを伝えたいままに理解してもらえた。
その結果、クライエントの伝えたいことを、カウンセラーと一緒にわかち合えたという実感が生まれます。
この実感こそ、人間に大きな力を与えるものであり、専門的には「共感的理解」ともいわれるものです。
私たちにとって、大きな喜びでもあり、最も力に変わる経験。
それは「理解されることそのもの」にあります。
決して助言や分析や励ましなどではないのです。
よく、本当に信じている人間は、「信じているよ」という言葉は口にしないといいます。
本当の意味でクライエントの悲しみ、痛み、やりきれなさを理解できている人間も同じ。
真にわかっってあげられている人間は「わかるよ」などとは言いません。
昔、私は師匠に、こう諭されたことがあります。
不安と緊張で固くなっている小学生に私は「(ここは)安心していいよ」と声をかけたのです。
しかし、師匠はその私の一言を聞き逃さず、、急に眉間にしわを寄せ、厳しい口調で、こう言いました。
「『安心して』などと言葉でいっているうちはダメだ。
言葉ではなく、態度や空気で安心させるくらいのことが出来ないのか」
私はそう言われ、無意識の(不用意な)自分の言動にほとほと嫌気がさしたことを思い出します。
「わかるよ」「辛いね」も同じことです。
それはこちらが安っぽく口にすることではないのです。
こちらが口にすることではなく、クライエントが感じるから意味があります。
クライエントが自ら「わかってもらえた」と実感できることが大切なのです。
私たちは何かを伝えることも大切ですが、このように「伝わってしまうこと」でも勝負しているのです。
「この人、本当に私の痛みを理解してくれている」
「この人は、私のこの深い悲しみを、我がことのようにわかちあってくれている」
クライエントが心から、そして自然にそう実感できている。
だからクライエントの心には、力が生まれていくわけです。
わかってもらえるということは、これほどの力を生むわけです。
ラポールとは、こうした理解に努める人間と理解されたという実感を持った人間との間に生まれる関係性です。
そしてこの関係性の構築が出来るようになるには、試行錯誤が必要です。
初めのうちは何度も失敗します。
その失敗が怖くて手っ取り早い理論や方法論に逃げても先はありません。
何度やっても上手くいかず、自分はまだまだだという結果になります。
また、ひた向きにやっている人間ほど、自分がまだまだだと思うものです。
まっすぐに取り組んでいる人間ほど、自分は未熟であるということを、否定的にではなく、それこそ「まっすぐ」に受け止めています。
以下は河合隼雄氏の言葉です。
「自分はダメなんじゃないかと思えなくなったとき、それは本当にダメになったときです」
逆にいえば、自分はダメだ、未熟だ、まだまだだと、それこそ本気で思えているうちは、伸びしろがあるということです。
そこに不安を覚え、その不安と真っ直ぐ向き合う限り、進歩・向上が隣り合わせで存在するはずです。
この部分の自分に対する「手綱(たづな)」を緩めなければ、まだまだ進歩・向上が可能になります。
相手が一番いいたかったことを、言いたかったままに理解する。
言葉にすると実にシンプルですが、いつなんどきでも、カウンセリングの基本になる姿勢だと思います。
看護におけるラポール形成
看護におけるラポール形成のポイントは、患者の不安を理解し、患者も看護側に不安を理解されたという実感をもてるかどうかです。
看護師の方の事例検討もさせて頂いていますが、検討しながら感じることは、患者の訴えをまっすぐに受け止めるというところで、看護者皆さん、とても苦労されているということです。
なぜなら、患者の訴えは基本的には病気というフィルターを通してのものだからです。
看護者は医療者でもありますから、この病気を中心に患者と向き合うことは当たり前です。
しかし、ともすると患者を一人の人間としてまっすぐに寄り添うということより処置や身体的なケアばかりに気がいってしまいがちです。
さらに、病気によっては治癒が望めなかったり、余命や末期という話が伴う病気である場合、こうした病苦からくる患者の訴えに真っすぐに向き合うことは、なかなか困難なときさへあります。
しかし、患者の訴えをまっすぐに受け止め、それが患者に伝わることによってラポールが形成されることで、処置や治療もよりしっかりと出来る側面も出てくるはずです。
患者にしてみれば、自分の苦痛や不安、葛藤を十分にわかってもらえないままのケアと、お互いにそうした苦しみをわかち合えた関係であるという実感が持てたうえでのケアと、どちらが前向きに取り組めるかは明白です。
患者は言葉や態度によって自分が訴えたいことを伝えようとしているはずです。
それは意図的に、意識的にそうすることもあれば、無意識に自覚なくそうすることもあります。
そのいずれもを看護者に理解されたと思えば、患者は看護師の言うことを素直に聞こうとしたり、病気や自分の運命に対してより正面から向き合おうとすることも出てきます。
そうした患者の姿勢を引き出し、ラポールをさらに築いていくためのポイントは患者の言動を一言半句正確に聞くこと。
そして正確に聞いたことに対して的を射た、そして深い理解をもって接することです。
もちろん、看護側の適切な言動、配慮ある言動も大切です。
時には患者も不安定な様子を見せますので、感情的な態度になることもあるでしょう。
しかし、感情的な様子に動揺することなく、冷静に患者の一言、態度、ちょっとした変化などを見逃さず、常に理解を深めようとする姿勢は必ず患者に伝わります。
こうした姿勢や思いが言葉によって、あるいは言外にも伝わることこそ、ラポール形成の確かな第一歩につながるといえるのです。
介護におけるラポール形成
介護におけるラポールのカギは、利用者の中に状況への理解をもってもらうことです。
介護の現場でいうと、内科的な疾病や外科的な障害の患者の他に、知的障害、発達障害、精神障害、そして認知症の利用者の場合もあるでしょう。
特に知的、発達障害や認知症の利用者の方が不安定になったりする要因は、自分が置かれている状況が理解できないことからくる不安です。
介護者が苦労するBPSD(行動・心理状態)です。
彼らが理解不能の状況に置かれたと思ったとき、パニックを起こします。
そこで、暴れたり、物を投げたり、暴言を吐いたり、大声を出したりするといわれています。
逆に自分が置かれた状況の意味、必要性が理解でき、受け容れられたとき、利用者落ち着きを取り戻したり、素直に要求に応じたりします。
ということは、介護における介護者と利用者のラポールの形成の第一歩は、利用者にいかにその時々の状況を理解し、受け容れてもらえるかです。
そして、状況が理解できるという経験、あるいはそうした働きかけをしてくれる介護者という認識が利用者の中に生まれ、繰り返しそうした経験を重ねることで、介護者に対しての信頼感が少しずつ出てくるようです。
障害のある方の場合、その理解度、信頼を感じるために要する時間が非常に長いことが多く、これが介護者の負担の一つになっていることは事実です。
しかし、利用者なりに一旦介護者への信頼感が持てるようになると、その介護者に対する態度が他の介護者と全く違っているという場面を観ることは、決して珍しいことではないのです。
つまり、介護におけるラポール形成で重要なことは、利用者の状況理解を助ける働きかけの工夫と成果、そしてそのように接していこうという気持ち(姿勢)です。
こうした姿勢を持った介護者の介護行動は他の介護者とは一味も二味も違ってきます。
また、そうした介護者の思い、姿勢を一番敏感に感じ取るのは利用者自身です。
言葉による意志の疎通だけでは十分でなかったり、言葉による意思の疎通そのものが難しい場合でも、他の「手立て」や「工夫」によって、利用者の理解をもてるような働きかけを模索する。
その先に利用者と介護者のラポールが生まれるといえるでしょう。
こうした成果を生むためには、介護者同士の連携や成功事例のシェアと検証が欠かせないことはいうまでもありません。
ただ、慢性的な介護者の人手不足の問題は、こうした問題に取り組む上では大きな障壁になっていることも確かです。
ラポールと人間関係
「何を言うかではなく、どういう関係なのか」
50年ほど前の教育書に、非常に興味深い記述を見つけました。
それは、生徒がどうなったら勉強を積極的にやるか・・というもの。
読んでいくと、こんなことが書いてありました。
生徒が勉強に積極的になるカギは、先生の指導法ではない。
先生がいかに生徒に働きかけるかということでもない。
先生と生徒との間柄が、どういう「間柄(あいだがら)」になっているかだ。
つまり、先生と生徒との関係性によって、生徒のやる気が決まるというのです。
先生と生徒との間で「ある関係性」が成立していたら、生徒は自ら勉強に取り組むというのです。
そして、生徒が先生との間に、ある関係を経験することで、生徒はモチベーションをもって、自ら勉学に励むと・・・
これは、実に興味深い記述だと思いました。
なぜなら、まさにカウンセリングと同じだと思ったからです。
カウンセリングの成否を握るもの。
その重要なファクターの一つは、やはり「関係性」です。
カウンセラーとクライエントとの関係性は、カウンセリングの成否を大きく左右します。
一言でいうと、ラポールであり、信頼関係ということにはなります。
しかし、ここでいうラポール、信頼関係はもう少し説明を必要とするでしょう。
互いに信頼し合っている。
確かにそうなのですが、順番としてはこうです。
まず、カウンセラーがクライエントを限りなく信頼すること。
こちらが先にあります。
では、クライエントの何を信頼するのか?
それは、クライエントの持っている「立ち上がる力」です。
クライエントの内面にある潜在的な立ち上がりの可能性です。
これをカウンセラーは、心の底から強く信頼する必要があります。
先にこの信頼があって、その後にクライエントがカウンセラーに信頼を寄せます。
クライエントは、カウンセラーを、自分の問題解決の伴走者として心から信頼していきます。
また、カウンセラーを、自分にとって最良の理解者であると実感します。
こうしたクライエントの実感は、カウンセラーのクライエントに対する信頼から生まれます。
カウンセラーがクライエントの立ち直りを心から信頼する。
そうなると、カウンセラーは余計な助言や励まし、指摘をしません。
しないというより、「したいという気持ち」が起きません。
カウンセラーのすることは、ただひたすらクライエントを理解すること。
クライエントの経験の世界や感覚、それを共にわかちあうことです。
するとクライエントは、カウンセラーが自分を「どうにかしよう」と思っていないことを感じます。
カウンセラーが自分をひたすら理解しようと努め、その理解の中身をこちらに誠実に(忠実に)示そうとする。
その姿を通して自分というものの理解も促進し、同時にそういう姿勢のカウンセラーに心から信頼を寄せます。
クライエントは今ままで、何らかの形で自分を否定されるという経験を重ねてきました。
場合によっては、自分で自分を否定してきてもいます。
そんなとき、カウンセラーは自分に対してひたすら理解に努めてくる。
つまりそれは、一切否定をされない関係性です。
一切否定されないからこそ、クライエントはカウンセラーに信頼を寄せ始めます。
肝心なのは、クライエントがそういう関係性を経験するということ。
そして、その関係を経験することで生まれる「信頼」という実感です。
クライエントはこの実感をもつことで、自分の問題に真正面から取り組む意識を持ち始めます。
そう、カウンセラーが信頼してきた「立ち上がる力」が、こうして芽を開きます。
学校の先生も、生徒の可能性を強く信頼します。
すると、下手に教えよう、やらせよう、やる気にさせようという気が起きません。
先生はただ、生徒の中で何が起こっているかに着目します。
生徒が目の前の課題をどう捉えているのか?
どこが理解できていて、どこが理解できていないのか?
何に興味が起き、どういう気持ちが出てきているのか?
先生は生徒のそうした瞬間々々の内面理解にひたすら努め、それを生徒とわかち合います。
そうすると、生徒はより積極敵に、「自ら」学習に取り組もうとするそうです。
カウンセリングはある意味、教育的要素が強くあります。
クライエントが人として成長を起こすからこそ、本当の意味で問題が解決したり、問題が問題で無くなっていくからです。
カウンセリングでは、そうした心の成長をクライエントが経験することが重要です。
そしてそれは、カウンセラーとそうした「成長ができる関係」を「経験していくこと」がカギになるわけです。
ですから、カウンセラーは何を伝えるか、何をやるかより、クライエントとどういう関係性を築けるかが根本的に重要になります。
つまり、こうした関係性を築くために何が必要かを知り、その力を養っていくことこそ、最も求められていることだといえます。
ちなみに、信頼するというのは、盲信や傾倒とは違います。
盲信や傾倒は、相手の全てを「正しい」と思いこむことです。
信頼は、信頼できないと感じたら無くなるものです。
そこには常に、自分の判断の自由が存在しています。
クライエントを抱え込むカウンセリングは悲劇しか生みません。
カウンセラーは、クライエントの意志と選択をいつも尊重し、いつでも信頼でき、いつでも離れていける関係を心がけたいものです。
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