カウンセリングマインドとは(その意味と事例)


カウンセリングマインドは、知識を増やしたりテクニックでカバーできるものではありません。
カウンセリングマインドとは、カウンセラーの心理的な反応であったり、反射神経そのものを指します。
では、そうした心理反応や反射神経を、カウンセラーはどのようにカウンセリングに活かすことができるのでしょうか?
以下にわかりやすく解説します。

【筆者プロフィール】
心理カウンセラーとして7000件以上(2024年11月現在)のカウンセリングを実施。
5年間にわたりスクールカウンセラーとして教育現場の問題解決にあたり、現在も個別に教育相談を受ける。
大手一部上場企業を始めとした社員研修の講師として10年以上登壇し、臨床カウンセラー養成塾を10年以上運営。コーチとしても様々な目標達成に携わる。
著書「感情は5秒で整えられる(プレジデント社)」は台湾でも出版された。
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カウンセリングマインドとは

「カウンセリングって、いろいろアドバイスされるの?」
「カウンセラーって、人の心を分析したりするんでしょ」
「根掘り葉掘り、言いたくもない過去のこととか質問されるんでしょ?」

カウンセリングマインドとは一体何なのか。
それには、カウンセリングが何かを改めて考える必要があります。
カウンセリングを一言でいうと、それは人間関係です。
カウンセラーとクライエントの間で生まれる援助的な人間関係によって、クライアントの悩みの消失や問題の解決を図るのが、カウンセリングであるといっていいでしょう。

でも、これだけでは、なんだかよくわかりませんね。

援助的な人間関係って、一体どういうものなのか。
援助的な人間関係と、普通の人間関係とは、一体どこがどのように違うのか。
カウンセラーは、クライエントの話を、ひたすら真剣に聴こうという態度で受け止め、理解しようと努めます。
クライエントが訴えずにはいられない否定的な考えや人間不信、自己否定観、思い込みや愚痴よような話も、できる限りそのまま受け止めようとします。
カウンセラーがクライエントの考え方や思いを最大限に尊重し、クライエントの言葉、一つ一つを正確に聞き、受け止め、それを配慮を伴った心豊かな言葉で返していく。
自分の考え方や思い、言葉を、カウンセラーによって最大限に尊重され、正確に受け止め、受容した雰囲気と言葉で返されることによって、クライエントは自分の内面を更に正確に洞察することが可能になります。
そういったカウンセラーの態度を目の当たりにすることで、クライエントは次第に心を開き始め、自分の本当の感情に気づき、本当の自分自身とむきあうようになり、自己理解を促進させていきます。
自己理解が進むと、なぜ、自分がそのような問題を抱えて悩んでいたのかも、少しづつ理解できるようになります。
そして、どうすれば良いのかということを、クライエント自身が気づき始め、自ら問題解決に必要な発想の転換や行動を起こし始めます。
ここまで来れば、カウンセリングは成功したといえるのですが、しかしながらここまで来るまでに、ひと山もふた山もあるのです。
ですから、カウンセラーの大切な役割の一つは、クライエントに、ひと山もふた山も越えてもらうために、ひたすらクライエントと共に歩くことです。

カウンセラーは、心の専門家です。
ですから、「人の心は、本当によくわからないものだ」ということを、誰よりもよくわかっている人間でありたいものです。
「人の心というものは、本当にわからない」と痛感しているからこそ、安易なアドバイスや、わかったような分析ができないのです。

では、カウンセラーは何をするのか。
カウンセリングでは、カウンセラーは、ひたすらクライエントの話を聴くことに徹します。
なぜならば、「人の心はわからない」わけですから、とにかくはじめのうちは、聴くしかないわけです。
たとえわかったと思えても、カウンセラーは、更に話を聴こうとします。
このカウンセラーの姿勢に、一瞬、クライアントは戸惑いを覚えるかも知れません。
しかし、カウンセラーは、話を聴くプロでもあります。
ここから、ひと山もふた山も越えるために、時には、長い沈黙を体験します。
カウンセラーは、それでも待っています。
クライエントが最も大切な核心部分に恐る恐る触れていこうとするのを、クライエントが自ら心を開くのを待っているのです。
そして、クライエントが自ら、山を登ろうとするのを待っています。
時には、10分や15分、それ以上の沈黙を経験することもあるでしょう。
しかし、カウンセラーは、その長い沈黙を、暖かい落ち着いた態度で待っています。
すると、クライエントの話は、知識や経験、知的理解のレベルから、より深い心の世界、感覚から出てくる言葉へと変わっていきます。
いわゆる、面接が深まっていくという場面ですね。
カウンセラーに嫌われたくないとか、こんなことどうしても話せない、わかてもらえないということについて、意を決して話しだすかも知れません。
そうです、これが、ひと山、ふた山を越えようとする場面の一例です。

時に、カウンセラーがアドバイスをすることもあります。
しかし、それは、本当に稀なことです。
アドバイスをした方が、回復が早いとか、クライアントとの信頼関係が築けて、アドバイスを受け入れられると判断した時くらいです。
そういう場面は、滅多に訪れないものです。

カウンセラーが、時には質問を投げかけることはあります。
ですが、それは、言いたくもないことを根掘り葉掘り聞き出すためではなく、クライアントが話しやすくするためだったり、クライアントの自己洞察を助けてあげるためだったりします。

つまり、カウンセリングマインドとは、こうしたクライエントとの関係を効果的に、援助的に築くために必要なカウンセラーの心構え、姿勢。
そう言ってもいいと思います。

カウンセリングマインドの重要性

カウンセラーがカウンセリングに臨むとき、または、カウンセリング的関わりで臨むとき。
相手に対して、自分がどんな心的態度で臨むのか?
そうした内面と、内面からにじみ出るものを指しています。

では、カウンセリングマインドとは一体何なのか。
どのような心的態度のことをいうのでしょう?
どんな姿勢で臨むのが理想なのでしょう?

一番大切なことは、「安定している」ということです。
カウンセラーは、カウンセリングの際には、安定感をもって、そこに座っていること。
これが、ものすごく大事になってくるんです。
クライエントは、精神的に不安定な状態でカウンセリングに訪れます。
ですから、カウンセラーが安定して、そこにいること。
これが極めて重要になってきます。
カウンセラーが安定した状態で、クライエントの話を聞き続ける。
それだけで、クライエントも安定感を取り戻していけます。

これはいくら理論を勉強して知識を増やしても、どうにもできないことです。
カウンセラーの安定感は、日々の蓄積によって相手に醸し出されていく種類のものだからです。

しかしこれは、カウンセラーだけの話ではありません。
様々な人間関係の場面でも、全く同じことが言えてしまいます。
人は、安定した人に、より影響を受けるものなのです。
実は、私たちは自信満々や勢いのある人よりも、むしろ、安定感のある人間に深い影響を受けるのです。
活力的で勢いのある人からの影響は、一瞬、こちらも活力を得たように感じます。
すぐに体感できるので、みな、こちらを求めます。

ところが、3日も経てば、その勢いは消えてしまいます。
なぜなら、そこには自分をきちんと省みるという「内省」が抜けているからです。
自分というものをしっかりと省みる。
そういう機会がないと、本当の意味で前に進めません。

数多くの自己啓発セミナーに参加しても、意欲が続かないのも道理です。
なぜなら、そこに「内省」がないからです。
今の自分が改善すべきことは何か?
変化・成長していくために、学ばなければならないことは何か?
これらを内省によって知ることなくして、変化・成長は起きないのです。
自分の改善点を横においてテンションだけ上げても、冷めた頃には元に戻るだけです。

安定感のある人からの影響というのは、静かな感覚を私たちに与えてくれます。
だから、落ち着いて物事や自分自身を見つめ直す心の余裕すら得られるんですね。
地に足のついた感じがしてくるわけです。
そこには「内省」の機会があり、視野の広がる機会があります。
だから、時間が経ってからジワジワ変化を実感します。

そして、内省を得た変化の一番良いところ。
それは、その変化が長く続き、定着していくことです。
こうした機会や感覚をクライエントが得ることで、クライエントは真の立ち直りを経験できます。
そういう人間的な成長を呼び起こすからこそ、カウンセリングは人を変えていく機会になるわけです。

では、人が落ち着いて内省や洞察を行い、着実に人間としての成長を起こす。
こうした影響力を与えられる安定感は、いったいどのように得られるのでしょうか?
これには、カウンセラー自身がカウンセリングの際に、自分の内面に安定感を持つことが必要です。
安定感というものは、経験と実感から生まれます。
これで大丈夫だ、これならできる。
そういう自信、いえ確信を自分の中に得ていること。
これが、その人の安定感を生み出します。
ゆるぎない自信、ゆるぎない安定感。

別な言葉で言えば、覚悟ですね。
必ず成功してみせるという覚悟があれば、そのままそれが安定感を生みます。
迷いや不安があると、この安定感が得られません。
ですから、この安定感を得るためには、今の自分の中にどんな迷いや不安があるのか?
これをしっかりと検討するところから始めると良いでしょう。
その上で、物事の捉え方や、人生観、人間観を再構築していけばいいわけです。

カウンセリングマインドと傾聴

カウンセリングマインドが傾聴する上で実際にどう影響するのか?
これは大きな影響を与えているといえます。
傾聴というのは、クライエントの話を正確に聞くことであり、聞けることであると養成塾では定義しています。
したがって、傾聴トレーニングとは、話を正確に聞けるようになるためのトレーニングだとお伝えしてきました。
この「正確に」というところに、カウンセリングマインドが大きく影響してきます。

カウンセリングマインドはある意味、聞き手の中に起こる心理反応です。
その心理的な反応は、話を正確に聞くことを促進するものもあれば、邪魔するものもあります。
特に経験値や訓練が十分ではない場合、その心理的な反応は「正確に聞く」ことを邪魔するものである場合がほとんどです。
傾聴、つまり話を正確に聞くために必要はことは、一言でいうと「集中力」です。
余計な感情、思考、想起などを起こさないよう、ただひたすら相手の言葉・表現、話の内容、話し方を正確にインプットし続けることが傾聴実践の大前提です。
カウンセリングマインドがしっかりとしていれば、こうした余計な要素は起きにくいので、それだけ正確に話を聞けるようになることになります。

マインド、つまり「あり方」は、様々な捉え方が織りなすものです。
ですので、カウンセリングの研修やトレーニングによって、相手の話を正確に聞ける姿勢を確立することと、カウンセリングマインドを養成することとは、イコールだといってもいいでしょう。
それでは今度は、傾聴と共に連動した働きをし、カウンセリングにおいても重要なものである「受容」「共感」とカウンセリングマインドの関係性を解説していきます。

カウンセリングマインドと受容・共感

受容と共感についても、知識や技術的な面だけでは十分の実践が難しいところがあります。
受容や共感というのは知識があればできるというものではありません。
受容や共感は、瞬間的な心理反応の連続によって成り立っているといえます。
受容や共感というのは、クライエントの話や態度に接した際に起きる、カウンセラーの心理的な反応の一つといっても良いのです。
つまり瞬間的なものなので、普段の反射神経が問われるといってもいいでしょう。

例えば、クライエントが職場の同僚に対する不平や不満を延々と話し続けたとします。
その話をずっと聞いていく中で、カウンセラーの内面では様々な心理的反応や感情の生起が目まぐるしく起こることでしょう。
その時にカウンセラーは、クライエントが訴えていることに対し、訴えている通りにしっかりと理解することが求められ、これが共感もしくは共感的理解といっていいでしょう。

また、クライエントが延々と語る同僚や上司への不満不平を聞きながら、カウンセラーはそのクライエントの感情・思いをそのまま受容していくことができるかどうかということも問われます。
こうしてカウンセラーの内面に起こる反応というのは、知識が豊富にあればより自然に適切になるというものではありません。
とにかくひたすらにクライアントが訴えたいこと、わかってほしい気持ちにカウンセラーの注意を向け続けることで適切になるといえます。

こうして捉えていくと、しっかりとした受容や共感というものはカウンセラーがその場を、つまりそのカウンセリング面接を、そのクライエントをどう捉えているのかといったことが重要になって来ることはお分かりいただけると思います。
そしてクライエントの話を聞き続けている時のカウンセラーの心の在り方によって、しっかりとした受容や共感ができるかどうかも左右されてくるのです。
カウンセラーのあり方やその場をどうとらえていくかといったこと。
つまりカウンセリングマインドこそが、受容と共感にとって極めて重要な要素となることは疑う余地はありません。
カウンセラーの中でクライエントやクライエントの話に対して、否定的な感情や捉え方・思考が起こらないような姿勢を維持するためにも、自分なりのカウンセリングマインドというものが必要になってくるのです。
何度もいいますが、これは知識やテクニックでカバーできるものではありません。
カウンセラーの反射神経、心理的反応によって決まってくることで、それらを決める土台的な要素がカウンセリングマインドだといってもいいでしょう。

カウンセリングマインドと自己一致

カウンセリングマインドの重要なものとして、自己一致があります。
自己一致とは、わかりやすくいうとカウンセラーの感じていること、考えていること、その態度・言動が一致していることです。
もっと端的にいえば「そこにウソがないこと」といってもいいでしょう。
腹の中では、クライエントの言動に怒りや批判など、否定的な感情が起きているのに「よくわかりますよ」という態度を見せる。
これは自己一致していない状態(不一致)です。
心の中で否定的な感情が起きているならば、まずそのことを認め、受け容れる。
クライエントに対して怒りや批判的な捉え方、感情が起きているのなら、そのことを正確に(素直に)認識する。
これが自己一致です。

ですから、こうした否定的な感情の存在が自分の内面にあることを認めていれば、それをそのまま表明しなくてもいいわけです。
何でも正直に言えばいいってもんでもないですしね(笑)
そこは相手(クライエント)への配慮が必要です。
自己一致をこのように捉えるカウンセリングマインドは、いざという場面で非常に大切になってきます。

特に児童や思春期の子どもとの面接では、この自己一致(ウソがないこと)は厳しく問われます。
問題行動を起こす子ども、問題を抱えた子どもは、相対する大人の中にウソがないかどうかを鋭く見極めてきます。
問題行動を起こす子や問題を抱えた子どもは、大人に何度も裏切られてきたので、目の前の大人にウソが無いかを、様々な挑発行為や問題行動によって試してきます。
私自身もスクールカウンセラー時代、この「試し」にいかに対応するかは、本当に試行錯誤しました。
子どもの試しにしっかり対応し、その子が「この人は本物だ」「この人なら信じてみよう」という合格点をもらえなければ、その子の援助が出来ないからです。
それはある意味、この人は自己一致しているかどうかということを試されているのと同じといってもいいでしょう。
子どもの臨床こそ、本当にカウンセリングマインドを試されます。

カウンセリングマインドは教師・保育士に必要か?

子供と関わる教育の世界でも実はカウンセリングマインドは非常に重要です。
学校生活にしろ、園での生活にしろ、子供はその環境の中で様々な面を見せながら子供たち同士の人間関係を築いていきます。
そうした生活体験の中で、子供たちは生活の仕方や教科の学習をしながら、同時に人間としての成長をしていきます。
つまり学校生活や園での生活の中で、子供たちは様々な人間関係や生活体験を通して、人間的な成長をしている。
まさにそれは教育であり教え育てる環境だと言えるでしょう。
つまり学校や保育園でこそ、子供たちがしっかりとした、そして確かな人間的な成長を遂げるために教師や保育士の関わり方が重要になってきます。

教師や保育士がどんな心の在り方で子供たちと接していくのかで、子どもの成長は変わってきます。
その心のあり方としてカギを握るのはカウンセリングマインドと言えるでしょう。
カウンセリングというのは、もともと教育の世界から生まれた関わり方なのです。
つまりカウンセリングとは1人の人間がいかに成長していけるかと言うところにその研究の主眼があり、どんな関わり方をすることがその人間の成長に最も効果的かを研究してきた分野とも言えるのです。
したがって教師や保育士の心の在り方、子供たちと接する態度を通してカウンセリングマインドを重視していく事は、子供たちが最もしっかりと成長していく援助となっていくと考えられています。
教師や保育士がカウンセリングマインドを意識した関わり方で子供たちと共に生活をしていく。
あるいは、学科の指導を通しても、生徒の成長を促す意味でカウンセリングマインドを意識する。
それらは、教育の現場においてはまさに理想的な関わり方だと言っても良いでしょう。
カウンセリングマインドこそ教師や保育士にとって必要な教育的な態度であると言っても良いと思います。

カウンセリングマインドと教育相談

この場合の教育相談とは、進路指導などの面談から、不登校やその他の問題に関する面談を指しています。
主に学校生活を送る上で生じた問題を解決するための相談の場ですね。
対象は主に児童・生徒、そして保護者です。
私もスクールカウンセラー時代と現在も、この教育相談を行なっています。

現在、一番多い相談内容はやはり不登校ですね。
そして中学生がほとんどです。
スクールカウンセラー時代は小学校に赴任していたので、小学生やその保護者、そして教職員が対象でした。
そして、相談内容がどんな内容であっても、そこには必ず心の問題があり、その部分を抜きには解決は出来ないものばかりでした。
ですから、教育相談でもカウンセリングマインドは常に必要であり、かつ重要なものでした。
通常のカウンセリングと比べて教育相談は、広い視野でケースの全体像も捉えていく必要がありました。

例えば、不登校の子どもの相談の場合、その子だけではなく、その子の保護者や家族、親族、クラスメイト、担任や教職員、塾の先生やクラスメイトなど、関わりのある対象者も多い場合があります。
そうなると、それぞれの人たちの立場や思い、思惑、捉え方、要望なども違ってくるので、そうした相互の関係や個々の要素、全体としての状況などまで視野に入れながらの面接となります。
ですから、教育相談のカウンセリングマインドを考える場合、受容や共感、傾聴はもちろんのこと、客観的な理解、理性的な判断も求められることになります。

教育相談では、カウンセリングとコンサルテーションと、その両方を適宜行っていくことになるでしょう。
教育相談は、傾聴、受容、共感だけでは、対応できないところがありますが、しっかりとした傾聴や共感、受容もないと、そもそも客観的な理解も持てないのです。
教育相談で必要とされるカウンセリングマインドは、かなりの広い視野と客観性が求められます。
では、こうしたカウンセリングマインドは、どのような研修で身につけていけるのでしょうか。

カウンセリングマインドの研修

カウンセリングマインドは、どのような研修によって養成されてくるのでしょうか。
マインドですから、内面的な啓発が主となりますね。
具体的には以下の研修です。

・教育分析
これはカウンセラーが受けるカウンセリングで、指導を受けているスーパーバイザーによるカウンセリングで、自己分析をしていきます。
カウンセリングを行うカウンセラーは、それ相応の精神的な安定感、バランスの良さ、感受性、そしてパーソナリティーが必要です。
そうしたことを自己チェックする意味でも、教育分析は受ける必要があります。

・エンカウンターグループ
特にテーマ設定も進行の仕方も決まっていない「非構成」「ベーシック」のエンカウンターがおススメです。
自己の内面を見つめ、他社との交流を深く経験することができ、学びは大きいグループセッションです。

・ケース検討カンファレンス
カウンセラーが自分のケースを他のカウンセラーや指導者(スーパーバイザー)に検討してもらうものです。
実際の面接での動き方をチェックするもので、カウンセリングマインドを養成するには非常に実践的な研修ですね。
それから、私の運営する「臨床カウンセラー養成塾」では、個別レッスンによってカウンセリングマインドを養成しています。

研修を探したり受講するポイントは、知識や理論ではなく、自分が実際にカウンセリングをする際の反射神経、瞬間的な心理反応をいかに磨けるプログラムかという点です。
また、そうした反射神経や心理反応を適切に働かすことができる姿勢、捉え方、心理状態をマスターするということであり、これらがまさにカウンセリングマインドだともいえるわけです。

カウンセリングマインドの事例

私はかつて5年間、都内の公立小学校3校にて、スクールカウンセラーをしていました。
師匠である吉田の研究所が、区の教育委員会から委託をうけた事業でした。
吉田の研究所では、毎月1回、そのケースカンファレンス(事例検討)が実施されました。
不登校、いじめ、学級崩壊、家庭の問題など、実に様々な事例が次から次へと提出されました。
私もこのカンファレンズ以外の授業も含め、自分の学校のケースをずいぶんと吉田に観てもらいました。

ある月のケースカンファレンスでの一幕。

あるスクールカウンセラーが、ケースを提出しました。
問題を抱えた児童に、カウンセラーは手を焼いていました。
学校内でも、家庭でも落ち着きがなく、いろいろな問題を起こす男児B君のケースでした。
そして相談室でも、その落ち着きなさは持ち込まれ、カウンセラーの対応に困っていたのです。
カンファレンスが進められていったとき、吉田がカウンセラーの「ブレ」を指摘しました。

「どうしてこんな対応になるんだ!」

厳しい指摘でしたが、非常に鋭い指摘でした。
その時、そのカウンセラーは、こう言ったのです。

「B君との面接では、そんなに否定的な感じは、自分の中にはないんですけど・・・・」

この一言を、吉田は逃しませんでした。
顔つきが「キッ!」と厳しい顔つきになり、さらに厳しい口調で、こう問い返したのです。

「なんですか?その『そんなに否定的な感じではない』というのは?」

ケースカンファレンスに、一瞬で緊張が走りました。
重苦しい沈黙が起こり、しばらくしてまた、吉田はその厳しい口調のまま、こう言いました。

「私たちは、この子の前では、『全面的に肯定的になれるか、なれないか』・・なんです!」

吉田が問題視したかったのは、カウンセラーの姿勢の問題。
問題を抱えた子どもに、カウンセラーが必要とするのは、100%肯定的になれるかどうかだ。
そういう厳しいフィードバックだったのです。
指摘を受けたカウンセラーは、黙っていました。
・・というより、口がきけなくなった感じでした。

しかし、私は同時に、厳しいというより、常に基本姿勢なんだよな・・と思いました。
そして、そのカウンセラーへの指摘は、即、我がこととして受け止めなければならないものでした。
私の経験上、吉田の指摘は正しかった。
そして、目の前の子どもは、この吉田より、もっと厳しく問うてくる。
そう思っていました。
今思えば、この「全面的に肯定的でいる」ということ。
これは、映画の「美女と野獣」ではないですが、閉ざされたこころの扉を開く唯一の力になるもの。
それは間違いありません。

私の学校の相談室で、資料をぶちまけた4年生の男の子がいました。
学校で知らない先生はいないというくらい問題を重ねて起こす子でした。
その子が私の相談室の机の上に乗って、部屋の資料を笑いながらぶちまけたのです。
こういう時、あなただったらどういう態度を取りますか?
こういう時にどうすればいいのか?
そんなことが書いてある心理学書なんて無いんです。

では、どうするのか?

その場で答えを見つけようとするしかありません。
なぜなら、答えは心理学の本ではなく、その子の中にあるからです。
私もその時、何が正解かなんて、わかりませんでした。
しかし、じっとその子を見ていると、あることに気がつきました。
この子は、こっちを見ながらやっている。
私を気にしながらやっている。
私がどういう反応を見せるか、試しているんです。
そして、その子の瞳の奥に、何かを感じました。

・・・・・必死さ・・・・

そう、この子は必死にやっている。
いや、真剣にやっている。
生きていくために、必死にやっているんだ。
そういうことが見えてきたんです。
その時、そうか、そうだったのか・・という気持ちになりました。
この子は生きるために、必死に資料をぶちまけて見せているんだ・・・と。

そうすると、不思議なことが起こりました。

私の方から、そういうこと、一切口にしていないのに、その子の態度が変わったんです。
資料をぶちまけることをやめ、私との対話に徐々に応じるようになった。
そのうち、一緒にゲームをしたり、他愛のない話で笑いあったり・・・・
たまに、家族の話しや教室の話になったり・・・
そうやって、目に見えない信頼関係が少しずつ築かれていったのだと思います。

その時、私は確かにこの子に対して、全面的に肯定的な自分であったと思います。
だから、吉田の教えは、やっぱり基本なんだと・・・
吉田は、こうした教えをケースカンファレンスでも随所に見せてくれました。
教育相談の世界でも40年以上のキャリアがあり、吉田の教育観にも、私は大きな影響を受けました。
そう、ロジャーズの言う「肯定的配慮」というのは、かくも厳しく、本質的なものだと実感したのです。

カウンセリングマインドとは、何か理論を知っていればできるというものではありません。
こうした「いざ」という場面で、どう対応できるのか?
そういうところで問われるものなのだと改めて思った次第です。

カウンセリングは言葉が邪魔になる場面もある

例えば、吉田の指導の場面で、こんな場面がありました。

あるカウンセラーが小学生相手のカウンセリングを行う際に、面接の冒頭で「緊張しなくて大丈夫、安心して」と語りかけました。

ところが、その録音を聴いていた吉田の表情が一瞬で曇ったのです。

その小学生は自主的に来談したわけではなく、親や先生に「言われて」来談した3年生の男の子でした。

学校で問題を起こし、家でも問題を起こし、それでカウンセリングを受けるように言われたのです。

つまり、本人の意志で来談したわけではありません。

しかも、問題を起こしての来談ですから、男児はとても緊張していたようです。

その様子を見ての冒頭のカウンセラーの言葉だったのですが・・・・

吉田はこの言葉がけに不満な様子でした。

そして、このケース(面接)の検討をひとしきりしたところで、吉田は重い口を開くように、こう言いました。

「だいたい、安心してなんて口で言ってるようではダメなんですよ」

カウンセラーの姿勢、カウンセリングマインドとは

吉田が言わんとしていることは、こうです。

クライエントに安心してもらうには、言葉でそう言うのではない。

カウンセラーの雰囲気、醸し出されるものによって、クライエント自身が自然にそう感じる。

これがあるべきあり方だと言うのです。

確かにそう指摘するだけあって、吉田の面接でのあり方は飛びぬけたものがありました。

反抗的だったり緊張からもの言わぬ中学生との面接。

吉田が一言、一言、言葉を投げかけるたびに、その抵抗感や緊張が見事に解けていくのです。

だんまりを決め込んでいた中学生が少しずつしゃべりだす。

固まっていた子どもが、最後にはしっかりと話すようになる。

いったい、どうしてこんな変化が一回の面接で起きるのか?

確かに吉田が投げかけるその一言一言の言葉も見事なものでした。

しかし、私は吉田の面接の録音を聴くたびに、言葉以上の要素を感じていました。

わかりやすくいえば雰囲気、吉田の言葉で言えば「醸し出されるもの」です。

これを別な言葉でいえば「カウンセリングマインド」なのかもしれません。

いえ、そのような言葉で表現しようとしても、それは無理があるのかもしれないくらい奥の深いものなのです。

カウンセラーから醸し出される雰囲気が重要

おそらく、吉田の正面に座ったクライエントからすると、正面に座っているからこそ伝わってくるものがあったはずです。

吉田は自分の著書に、ある高校中退者との面接の様子を記しています。

そこで、その青年が吉田とのカウンセリング体験を、後日母親にこう語ったそうです。

「カウンセラーは、自分が何を話そうと、何の指示も助言もしないのに、確かな人格をもった一人の人間がデンと座っているという感じで、何気ない一言、一言に、確かに人間を感じることが出来た。

それで安心できて、いろんなことが話せ、自分の考えや感覚の確かさや危うさを確認できた。ともかく、人間らしさが感じられたということが、とても嬉しかった。」

また、河合隼雄さんが、これも自身の著書で、ある青年とのカウンセリングについて記述していた。

その時の青年は、親に河合氏とのカウンセリングの感想を「どうだった?」と訊かれ、こう答えた。

「不思議な人だった。自分がどこへ飛んで行っても、いつも傍(はた)にちゃんといる人だった」

吉田にしても河合氏にしても、これはあきらかに「醸し出すもの」の成せる技でしょう。

言外に伝わるもの、感じさせるものがあったということです。

ちなみに、吉田や河合氏に限らず、実は私たちも醸し出しているものはあります。

あるのですが、問題はその中身、つまり「何がどう醸し出されているのか」です。

そしてここが難しいのですが、これは半ば「無意識に」醸し出されてしまうものです。

吉田はよく「伝わってしまうもの」という表現を使っていました。

これは私たちが好むと好まざるとにかかわらず、否応なく自分から醸し出されてしまうもののことです。

ですからコントロールできるものではないんです。

吉田は別の言葉で「隠しようもなく露(あら)わになる」とも言っていました。

ある意味、厄介ですね(^^;

これはカウンセラーがどんなに雄弁に、言葉巧みに取り繕っても、ごまかせないし、隠せないし、そのまま伝わってしまうということです。

クライエントからすれば、確実に感じ取れるものだといえるでしょう。

こう考えると、カウンセリングというものは、非常に難しいといえます。

隠しようもなく伝わってしまうもので、カウンセラーは勝負していくわけですから・・・・

では、どうすればセラピーにとってプラスになるものを、私たちは醸し出すことができるのでしょうか?

カウンセリングマインドと聞く姿勢

結論から先にいうと、小手先では無理です。

勉強していても身につきません。

一言で言えば「経験値」の問題です。

それも、何をどう経験し、何をどう蓄積してきたかの勝負です。

これは本当にごまかしがきかない、シビアな要素なのです。

そして、その判定ができるのは唯一、クライエントしかいないのです。

つまり、クライエントにとってカウンセラーとのカウンセリングがどのような経験となっていったのか。

カウンセラーから伝わってきたものが、クライエントの心にどう響き、クライエントの心をどう動かしていったのか?

こうした目に見えない作用がクライエントにどのような経験として受け止められていったのか。

これによってカウンセラーの醸し出されてしまうものの「意味」が決まってきます。

これはもう、本当に「経験値」としか言えません。

カウンセラーの心やその身体全体から染みついたものがにじみ出る。

そういうものがクライエントに伝わっていくという話ですからね。

日々、どういうカウンセリングをしてきているのか。

日々、どういう研鑽を積んできているのか。

そして日々、どんな生き方をしてきているのか。

こういう深い経験の積み重ねによって自然と練り上げられ、醸し出ていくものです。

だから臨床は知識がいくらあっても、それだけでは役に立たない世界です。

理論や手法でごまかすこともできない世界です。

世にある仕事の中で、ここまで「人間性」が影響する仕事も少ないでしょう。

吉田が醸し出したものは「確かな人格をもった一人の人間がデンと座っている感じ」でした。

河合氏は「どこへ飛んで行っても、いつも傍(はた)にちゃんといる人」でした。

そして大事なことは、クライエントが「そのように実感した」ということです。

こちら(カウンセラー)が何かを伝えようとしたという話ではありません。

クライエント自身がどう感じたかという話であり、クライエント自身の経験の世界の話だという事です。

カウンセリングというのは、こうした影響力によって成否が左右される。

そのために私たちは何をどう磨いていけば良いのか?

これがカウンセリング学習の中でも、非常に大事なテーマなんですね。

カウンセラーの健康的な感覚を働かせることが大事

心理の仕事をしている方々に、特に重要だといえること。

それは「常識的な感覚を働かせる」ということです。

なぜ改まってこんなことを書くかというと、心理の世界で仕事をしている人の多くが、そうではないからです。

つまり、多くの心理職従事者が、常識的な感覚が働かない、もしくは働かせないという場面に、これまで何度も遭遇してきたからです。

常識的なというのは、別の言葉でいえば「健康的な」となります。

私の師匠であった吉田の言い方でいえば「まともな感覚を働かせる」ということになります。

吉田は、私が師事しようと会いに行った際に、カウンセラーとしてこれからやっていく上での心構えを、こんな表現で私に伝えました。

「私の願いとしては、まともなものをやってもらいたいと思う」

つまり、まともにやっているカウンセラーがほとんどいないと言いたかったのです。

心理の世界で仕事している人間の多くが、こうした問題を抱えています。

自分の心の問題、精神的なバランス、パーソナリティーの健全さ。

こうしたことをきちんとクリアすることなく、心理の仕事に従事しています。

クライエントを傷つけるカウンセラー

例えば、ここまで読んで、あまり良い気分にならなかったり、反発を感じた人は要注意です。

また、教育分析を受けたくないという気持ちがある人も、同様です。

その場合、心に何らかの問題がある場合があります。

何かの情報に触れ、すぐに感情的な反応が起こる場合も、注意が必要です。

心理の仕事や援助職、カウンセリングをする場合は、こうした心の問題やパーソナリティーの歪みは、きちんとクリアしてから従事するべきです。

そうでないと、カウンセリングや援助の場面で、そうした問題が必ず新たな問題を生みます。

クライエントに感情的になったり、自分が精神的な不調を起こしたり等です。

常識的な感覚の有無は、瞬間的な反応として露わになります。

例えば、何かの集まりで自分の話ばかり延々として、他の人の話す時間を考慮しないとか。

言葉を選ばずにものを言ってしまい、周囲は驚いているのに、そのことに無自覚で改めようという考えも持てないとか。

カウンセラーなのに、人間関係でトラブルが多いとか。

SNS等で、自分の愚痴や不安を垂れ流す投稿をするとか。

心理の分野を仕事にしたり、相手に何らかの援助を行う立場ならば、このようなことは控えるべきです。

これは理屈ではなく、健康的な感覚が働けば自然と抑制されるような言動なのです。

今回、なぜこのようなことを書くかというと、こうした問題を抱えたカウンセラーに傷つけられたというクライエントが多くいるからです。

社会的信用を失っているスクールカウンセラー

子を持つ多くの親御さんからは、子供の学校のスクールカウンセラーは、とても変わった人で、相談する気にならない。

相談したら、わけのわからないアドバイスをもらって混乱した。

そういう声も、これまでたくさん聞いてきました。

防衛機制がある人はカウンセラーにはなれない

ですから、カウンセリングをする人間として健康的な感覚を磨いてほしいのです。

場を独占したり、非常識な物言いをするのではなく、周囲と自分の内面にしっかりとアンテナを張り、最低限、配慮ある言動や態度が取れるようになってほしいと思います。

自信のない方は、私のところでも教育分析を行ってますので、お問い合わせください。

現在もカウンセリングの仕事を将来したいと言う方々が、私のところで教育分析を続けています。

今の自分ではクライエントの方々に迷惑をかけるかもしれない。

だから、しっかりと自己分析を行い、フィードバックをもらいたい。

そう言って教育分析に通っているのです。

「防衛」が働かない人なら、教育分析を受けることには、大きな抵抗は起きないはずです。

心理の仕事をするには、知識や技術の前に、先ず何よりも常識的な(健康的な)感覚が働くようになってください。

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心理カウンセラー・臨床カウンセラー養成塾 塾長 鈴木雅幸(コーチ・企業研修講師)のプロフィール

台湾でも出版された「感情は5秒で整えられる(プレジデント社)」の著者で、心理カウンセラーとして6000件以上(2020年4月現在)のカウンセリングを実施。
5年間にわたりスクールカウンセラーとして教育現場の問題解決にあたり、現在も個別に教育相談を受ける。
大手一部上場企業を始めとした社員研修の講師として10年以上登壇し、臨床カウンセラー養成塾を10年以上運営。
コーチとしても様々な目標達成に携わる。
 詳しいプロフィールはこちら

著書「感情は5秒で整えられる(プレジデント社)」