カウンセリングを継続して行う上で「見立て」は重要です。
事例検討などを通して現状の把握、問題の原因分析、そして解決策やカウンセリングを行う上でのポイントを明確にします。
見立てには厳密な記録が重要で、そういう意味では逐語記録が本来は必須です。
今回はいくつかの問題例(事例)に対する見立てとその要点も解説します。
【筆者プロフィール】
心理カウンセラーとして6000件以上(2020年4月現在)のカウンセリングを実施。
5年間にわたりスクールカウンセラーとして教育現場の問題解決にあたり、現在も個別に教育相談を受ける。
大手一部上場企業を始めとした社員研修の講師として10年以上登壇し、臨床カウンセラー養成塾を10年以上運営。コーチとしても様々な目標達成に携わる。
著書「感情は5秒で整えられる(プレジデント社)」は台湾でも出版された。
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もくじ
カウンセリングの見立てとは
カウンセリングの見立てにおいて必要なことは、先ずクライエントが直面している現状を詳細に把握し、その抱えている問題を明らかにし、さらには原因分析と解決策を整理することです。
その上で今後の見通し、解決策の選択、そしてカウンセリングの対応を検討することです。
見立てがなければ、カウンセリングはその回ごとに場当たり的な対応となります。
大局観のないカウンセリングは下手をすると徐々に支離滅裂な流れになってしまいます。
当然、問題も解決しないし、クライエントの置かれた状況や精神状態も悪化します。
見立ての無いカウンセリングは地図のない旅と同じ。
行き当たりばったりで、どこへ向かっているのかもわからず、最終的には袋小路にはまり、途方に暮れてしまいます。
カウンセリングの見立ては地図であり道標であり羅針盤の役割を果たします。
クライエントの問題解決にとって、またカウンセリングで成果を上げる上で必須の作業といえるでしょう。
間違いだらけの現代の見立て
現代の見立ては、非常に大雑把で霞のような感じで行われています。
私が一番問題だと感じるのは、クライエントに対する問題視に偏重しているところです。
このクライエントのどこが問題で、どこをどう改善すべきかといったことが事例検討の中心になっていることです。
私が行う事例検討とその見立ての中心としていることは、カウンセラーの動き方です。
クライエントよりも、カウンセラーがどういうカウンセリングをしているのか。
カウンセラーが今後、どういうカウンセリングをすべきか。
ここが一番検討されるべきポイントだと考えています。
見立てに必須の逐語記録
現代の見立てで一番欠けていること。
それは逐語記録による事例検討です。
逐語記録はクライエント及びカウンセラーの一言一句が記録されています。
そうした記録なしに、カウンセラーのあいまいな記憶だけで厳密な振り返りと見立ては不可能なのです。
しかし現代の見立て作業では、逐語記録を用いません。
カウンセラーの記憶だけで、あるいはカウンセラーの記憶を元にまとめられた記録だけを用いて事例検討が行われます。
私は逐語記録を用いた事例検討を行っていますが、逐語記録を用いない場合と比べて、その検討内容には天と地ほどの差があります。
それは、録音記録を用いないで振り返りをするロールプレイと同じ。
後に何も残らないし、カウンセリング技術の向上も見込めず、発展性がほぼゼロといえます。
カウンセリングの見立て作業には、必ず逐語記録を用いるべきです。
事例検討にはスーパーバイザーが必要
見立ては一人で行わず、他のカウンセラーやスーパーバイザーが必要です。
スーパーバイザーは高い専門性とカウンセリングの確かなスキル、そして豊富な経験値を有した指導者である必要があります。
そして逐語記録による検討のスペシャリストであることが必須要件です。
スーパーバイザーなしで、決して一人だけで見立てようとしないことです。
一人で抱え込むことはとても危険で、適切な対応ができずに問題が悪化し、そのストレスと自責の念ででカウンセラーを辞めてしまう人もいます。
カウンセリング、見立ての作り方
カウンセリングの見立てをする上で、いくつかのポイントを紹介します。
先ずは次の3つの観点で問題を整理します。
1)現状把握「今、何が起きているのか、どうなっているのか」(現在)
2)問題(原因)分析「なぜこうなったのか」(過去)
3)解決手段の選択と実行「どうすればいいのか」(未来)
ここまでやって初めて見立てられたといえます。
ところが多くの見立て、事例検討ではいきなり「どうすればいいのか」を検討し始めることが多いようです。
あるいは2)原因分析にしてもクライエント偏重の傾向が強いでしょう。
「この問題に対して、あるいはクライエントに対して”私(私たち)”はどうするのか」
これが見立ての最終回答です。
そのために「クライエントがどうなのか」から「私たちはどうなのか」「私たちはどうみるのか」「私たちは何ができるのか」を導き出してこその見立てなのです。
では、具体的にどう見立てていくのか、その方針も含め、いくつか例を用いてみてみます。
不登校の見立て
不登校の場合、先ず最初にいつからどんな経緯で不登校に至ったのか、時系列を押さえます。
急にある日を境に不登校になった場合、その直前で何かあった可能性があります。
続いて原因がどこにあるのか、次の3つを起点に整理します。
1)学校生活
2)家庭(家族)
3)本人の発達課題(パーソナリティー、障害の有無)
実際には3つにハッキリと分類できずに、これらが混在しているケースもあります。
原因によってそのアプローチやカウンセリングでの視点も変わってきます。
不登校の場合、行けなくなった原因に当たる問題の他に、長期に不登校に陥ったことで起こる二次的問題も考慮します。
いかに再登校させるかの前に、何が不登校の問題になっているのかを把握することが必要です。
本人が語ってくれないケースが多いので、周辺の情報をつなぎあわせて究明します。
この場合の見立ては相当の専門性と経験値のあるスーパーバイザーが必要になります。
職場の人間関係の見立て
職場の問題は多くの要素・要因が複雑に錯綜している場合もあります。
そのため、現状把握には細心の注意を払います。
会社の事業内容、部署、職種、勤続年数、上司や同僚などのメンバーに関する情報などですね。
また、どこに問題の所在があるか。
クライエント自身にあるのか、相手にあるのか、部署や会社全体の問題なのか。
仕事の仕方、オペレーション(オフィス環境、長時間労働、無理な作業工程)の問題なのか。
互いの関係性(ハラスメント等)の問題なのか。
職場の雰囲気、暗黙のルールや規範、組織の歴史や伝統、慣習などの環境要因なのか。
それによって現状(今の職場・部署)で解決可能なのか。
それとも異動や転職が必要なのかを判断し、話し合っていきます。
家族の問題の見立て
家族構成、家族の成員のそれぞれのパーソナリティー。
家族の雰囲気、歴史、キーマン(最も影響力のある人間)は誰かなど。
そして何が問題で、その問題の原因は何か。
子どもがクライエントの場合は、家族の影響をダイレクトに受け続け、自分ではどうにもできないことが多いでしょう。
その場合は家族にも協力が可能かどうかを検討し、可能であれば働きかけ、難しければなるべく影響されないようにカウンセリングでサポートするしかありません。
大人であれば、自分の捉え方、選択次第で解決の道筋を見つけられ、自分の人生を生きていけるようになりますので、その支援を考えます。
心理的問題の見立て
本人の心理的問題(劣等感、トラウマ、ストレス、捉え方、葛藤、人生観など)の場合は、問題視している状況などを把握します。
そしてその状況をクライエント自身がどう捉えているのか。
内的にどういう反応が起きるのかを押さえます。
そこには必ずといっていいほど、クライエント自身の非合理的な捉え方があります。
その捉え方を発見し、先ずはクライエント自身が自分のその捉え方に気づく(自覚できる)ようにします。
究極的にはクライエントの捉え方が変わることで人格的な成長を経験できるようにカウンセリングを実施します。
転職・キャリアの見立て
転職の場合、先ずなぜ転職したいのかといった理由が重要です。
キャリアップなのか、今いる会社や仕事・労働環境などに対する不満なのか?
ハラスメントやいじめなど、顕著な問題に直面しているのか?
そうではなくて、クライエント自身の問題(自分に対する自信のなさ、人間関係構築が苦手など)なのか。
問題が起きていたり抱えていたりするなら、その問題を解決する必要があります。
その解決手段として転職なのか、自分自身に対する自己改革なのか。
また、転職にあたっては次の3つのいずれがテーマになるのかも検討します。
1)興味・関心(何がしたいか、何が好きか、何に価値を感じるか)
2)適性(何ができるか、何に向いているか、強みは何か)
3)適応(アイデンティティー、人間関係、コミュニケーション、人間的成熟度、心理的問題、社会性など)
1)や2)であれば、転職によって解決したり、キャリアアップにつながる場合もあります。
しかし3)の場合は転職で解決しないケースが多いでしょう。
うつ・強迫性障害、心の病の見立て
いわゆる精神的な不調や心の病の発症の場合ですね。
先ず、医療機関への受診や薬物療法の必要性を検討し、必要ならそれを促しましょう。
その上で状況の整理、問題の把握と原因分析、そして対処法などを順に押さえていきます。
そして休職(休学)した場合はその期間をどのように過ごし、復職(復学)に向けての段取り、手順を整理し、共有し、取り組みを支援します。
また、カウンセリングによって精神機能の回復に努めます。
休職・復職の見立て
休職や復職には、当事者であるクライエント意外に様々な立場の人たち(ステークホルダー)が関係しています。
会社内の上司、同僚、部下、人事担当、復職担当など。
その関係者たちの思惑、立場、関係性、パーソナリティーなども考慮して段取りを考えます。
問題によっては転職も視野に入れてという場合もあるでしょう。
復職に際してはほとんどの人が会社・職場・仕事に対する不安や焦りをもっています。
その不安や焦りには充分に傾聴・共感に努め、その上で可能な段取りをしていきます。
その際には必ず当事者(本人)の意向確認を忘れないことが肝要です。
また必要があれば会社側の人間ともやり取りをしていきます。
学校のいじめの見立て
結論からいうと、学校がいじめを解決できない場合は転校という選択肢を考えます。
子ども自身が安心して安全に過ごせると思える場所(学校)を探し、そこに移ります。
取り組む過程では精神的ダメージに対するケア、保護者のサポートと保護者と関係者とのかかわり方などをコーディネートしていきます。
現代のいじめはネットも利用されて、いわれのないでっちあげのネタを拡散されたりします。
そうしたネットへの対応も必要になってきます。
何か対応策やちょっとした動きを取る場合にも、基本的には本人に事前に了解を取りましょう。
いじめの有無、その内容など、その告白を本人に迫るような安易な働きかけはNGです。
【まとめ】カウンセリングの見立て、その方法とポイント
カウンセリングの見立てには、状況把握、問題(原因)分析、解決策の選択と実行を明確にすることが大切です。
また、問題やその状況などによって、アプローチや解決手段も変わってきます。
理想はカウンセリングの逐語記録を中心とした種々の情報があると、より的確な見立てができます。
見立ての作業には信頼できて力のある指導者(スーパーバイザー)に同席してもらいましょう。
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