傾聴力やカウンセリングスキルの恒常に必要なのは正しいトレーニングと上達とは何かを理解することです。
何でもそうですが、上達を実感するまでにはそれ相応の労力と時間が必要になります。
しかし、多くの人たちが「すぐに」とか「手っ取り早く」という思いに動かされ、継続したトレーニングから脱落していきます。
今回は上達するということがどういうことなのかを理解し、上達のために必要なことを解説します。
もくじ
まぜ傾聴がわからない、ちゃんと聞けないのか?
傾聴を学び始め、実際に人の話を聞いていくと、多くの人たちが様々な難しさを実感します。
その難しさのほとんどが「正確に聞けない」ということに尽きます。
相手の話を正確に聞こうと思っても、これがなかなか難しい。
どうしても余計な感情や考え、先入観や思い込みが邪魔をします。
しかも、こうした要素が働いていること自体に、私たちは無自覚なことが多い。
気づかぬうちに余計なものを働かせているというわけです。
いざ傾聴と身構えて相手の話を聞こうと思っても、しっかりと聞けない。
段々、どう聞いて良いのかわからなくなっていく。
やがて聞けばきくほどわからなくなり、ただただ戸惑うばかり。
この瞬間、聞き手の中ではいったい何が起こっているのでしょうか?
自分の価値観で聞いて(理解して)しまうと傾聴出来なくなる
先ほどもお伝えしたように、相手の話を聞いている中で、私たちの中では瞬間的に様々な反応が起こっています。
相手の話を聞きながら「そんなことばかり言ってもしょうがないよ」とか、「あ、それは私も経験したことがあるからわかる」とか・・・
つまり、相手の話を自分が聞きやすいように、理解しやすいように聞いてしまっているのです。
時には評価的に、 時には感情的に相手の話を聞いてしまったり、理解してしまったりしています。
なぜそんなことが起こるのでしょう?
それは、聞き手が元々持っている価値観や捉え方を通して話を聞いているからです。
聞き手は無意識に、自分の価値観や捉え方に合うように相手の話をインプットしているのです。
自分の価値観や捉え方を通して、腑に落ちるように聞いてしまうのです。
傾聴に必要な2つのポイント
ということは、相手の話を正確に聞くためにできることは二つ。
まず一つは「正確に聞くことに全神経を集中させること」です。
もう一つは「自分の持っている価値観や捉え方の狭さやか頼りに気づき、それらを修正したり、 よりバランス良くしていくこと」です。
1)正確に聞くことに全神経を集中させる
ほとんどの人が、ここに神経を集中しきれていない状態で相手の話を聞いています。
話を聞いているのに、途中で集中が切れたり、それたりしています。
これはトレーニングを積むことによって、正確に聞く反射神経を磨くしかありません。
具体的には、ロールプレイ、応答訓練、そして自分の面接記録の逐語分析です。
これを専門性を高く持つ信頼できる指導者に観てもらいます。
2)自分の価値観や捉え方をバランス良くしていく
話を聞いていく中で、自分の価値観や捉え方で腑に落ちるように解釈したり聞いたりしてしまう。
あるいは、価値観や捉え方に合致しないと、聞く姿勢が乱れて否定的になったり、感情的な反応を起こしたりします。
そこで、自分の価値観や捉え方に気づき、その狭く偏ったところを修正します。
具体的には、教育分析を受ける、エンカウンターグループを体験する、逐語検討から浮かび上がった自分の実態を検討するなどです。
こうしたトレーニングを十分に積んで行かないと、「かわいそうだ」「それはおかしい」「この人には自分の誤りを気づかせないと・・」という感情的な反応が起こります。
相手の話を正確に聞くということは、こうした「聞くことを邪魔する要素」を解消し、全神経を「正確に聞く」ことに向けるということなのです。
そしてそうした聞き方が出来るようになると、クライエントと深い洞察が経験できたり、カウンセリングでの進展がグッと進んだりということが起きます。
結果としてクライエントの人間的な成長や飛躍が生まれるというわけです。
カウンセリングスキルの上達にはそれ相応の犠牲が必要
カウンセリングのスキルを上げるには「上達すること」が必須です。
しかし、上達するにはそれ相応の努力という犠牲が必要です。
私たちの日常生活、コンビニやamazonのおかげで、けっこう便利になりましたよね。
欲しいものが「すぐに」手に入り、「手軽に」いろいろなことが出来る。
忙しい日常生活では、ありがたいことだといえます。
しかし、この便利さ、手軽さを「上達」に持ち込むと、途端におかしなことになります。
手っ取り早く物事を習得したい。
即効性のあるものがいい。
「すぐに」「手軽に」「簡単に」という発想を、例えばカウンセリングの技術の習得に持ち込んだらどうでしょう?
カウンセリングで「聞ける」ようになるまで、私も、私の師も5~6年かかりました。
これを「そんなにかかるのか、やっていられない」と取るのか?
それとも「その位かかるのは当然だから、とにかくやってみよう」と取るのか?
どちらの捉え方でカウンセリング技術を突き詰めるのか。
それによってその後の進歩・向上は大きく違ってくるでしょう。
カウンセリング、傾聴の上達の法則
「上達の法則」という本があります。
岡本浩一という社会心理学者の著書ですが、内容は秀逸です。
この本の中に、とても興味深い記述があるので、ご紹介します。
技術習得前には、いろいろなものが無意味なものとして認知され、
目にもとまならなければ記憶にも残らない状態である。技能を習得する過程で、それまで無意味処理されてしまっていた刺激が
有意味処理されるようになり、意味のある単位で認識されるようになる。
この記述は物事の上達、それに必要な技術の習得について、一般的な過程を述べたものです。
これはまさにカウンセリングの技術習得にも当てはまる内容です。
養成塾では「傾聴トレーニング」や「事例検討」を行います。
その時に、まさにこの現象が見られるのです。
つまり、同じ話(の録音や実演)を聞いているのに、人によって聞こえ方、意味の認知度、理解度が違ってくるのです。
はっきりいえば、訓練を積んだ人間には認識できる要素がそうでない人間には、それこそ何度聞いても認識できないのです。
「聞ける」感覚を獲得した人間には、クライエントの話の中で、重要な部分はどこか?意味するところは何か?がわかります。
クライエントが一番言いたかったこと、訴えたかったこと。
それらがなんであるかが「瞬時に」パッと見えてくるのです。
ところが、「聞ける」感覚を獲得できない段階では、録音を何度聞いても、それがわかりません(聞けません)。
話の内容や枝葉に囚われてしまい、一番重要なもの、全体像などが認識できない。
逆に全体に目を向けると途端に焦点がぼやけてしまい、一つひとつの言葉や表現の微妙な意味への理解が疎かになってしまう。
この状態を行ったり来たりして、なかなか的を射た理解ができないのです。
そしてこの習得にはそれだけ時間も手間もかかります。
そこに「手っ取り早さ」「手軽さ」の入り込む余地は、残念ながらありません。
しかし、この時間と手間の経験を積み重ねていくこと自体に、実は大きな利点が含まれているのです。
技術の習得に取り組むという忍耐と根気の要る経験。
この経験がカウンセラーに「深み」「思慮深さ」「洞察力」を与えてくれるからです。
上達への努力の経験がセラピストの人格を育てる
聞けるようになるための感覚の習得。
これはやはり、簡単な道のりとはなりません。
だからこそ、そこでの苦労の経験は、取り組む人間に、人間としての「年輪」を刻んでくれます。
その苦労が多ければ多いほど、あきらめずに取り組めば取り組むほど、その年輪はよりキメ細かいしっかりとしたものになります。
キメ細かい年輪を有した大木は、とても強い。
ゆっくりと根を張り、ゆっくりと年輪を刻みます。
年輪と年輪の間が少ないほど、ゆっくりと成長したことになりますね。
そしてそうした年齢を有した大木は、ちょっとやそっとのことでは倒れません。
手っ取り早く、手軽に、簡単にという発想で来たカウンセラー。
労を惜しまず、確かな技術習得に励み続けたカウンセラー。
クライエントは目の前のカウンセラーを、それぞれどう感じるでしょうか?
そしてカウンセリングを介してなされるやり取りを通して、クライエントはどちらに何を感じるでしょうか?
技術習得に妥協を持ち込まなかった人間には、何ともいえない「安定感」や「深み」を感じます。
それは主張などしなくても、自然と醸し出されてくるものです。
そうやって醸し出されてくるものによって、セラピーの成否は決まってくる。
いえ、醸し出されてしまうものによって、カウンセリングが左右される。
そう言っても、決して言い過ぎではないと思うのです。
結論として、上達や取得には、必要な時間をかけましょう。
必要な手間暇をかけ、労を惜しまないことです。
努力という犠牲を払えば、それだけ上達という見返りは得られます。
そして何より重要なことは、その年輪がクライエントにはごまかしようもなく伝わっていくということです。
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こういう話は、おそらく他では知り得ないと思います。
本当の意味で、現場で使える傾聴を身につけたい、そのために必要なことを知っておきたいという方。
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